パート1「寄付をする前」の経緯やバックグラウンドを知る
インタビューが始まったら、まずはその方の人となりを知るために、ご出身やお仕事、趣味などを警戒されない範囲でアイスブレイクを兼ねてお伺いしていきましょう。
お話しを聞く側も自己紹介をすると、話してもらいやすくなるはずです。
そのうえで、基本的なフレームワークとしては、「寄付をする前」「寄付をしたその時」「寄付をした後」の3つのパートに分けて、お話しを聞いていきましょう。
お互いについて知って、良い雰囲気を作っていきながら、だんだんと本題に入っていきます。
社会貢献に興味を抱いたきっかけや、ボランティアなどしていればその経験、その団体以外にも寄付をしていた経験がないか?など聞いてみましょう。
私がこれまでお伺いした寄付者さんの例から抜粋すると・・
「子どもが成人して働き始めて、時間もお金も多少ですが余裕ができるようになりました。途上国の子どもの教育事情について、気になって検索などして記事を調べていたら、Instagramで〇〇〇〇(大手国際NGO)の広告が出るようになりました。そこで少額ですが、マンスリーサポートで月1,000円の寄付を始めました。」(女性・50代前半)
「「子どもの貧困」への支援活動が報道されたのを見て、ある団体に毎月の寄付を始めました。ただ、活動や使い道の報告が届かず、支援をやめました。「今度はきちんとした団体に寄付したい」とネットで検索。さまざまな団体のサイトや一般の人の書いたブログなどを見て、2つの団体に寄付をしました。」(女性・50代前半)
「学生時代にボランティアをしていた友人が多かったこともあり、社会貢献をしたいと漠然と思っていました。ただ当時はお金がなく、寄付もできなかったのですが、社会人になって10年以上が経ち、給与もそれなりになっていました。結婚してから、妻が大学生の頃から〇〇〇〇(大手国際NGO)に毎月募金していたと聞いたのをきっかけに、学生時代のことを思い出し、寄付しようといくつかの団体を調べ始めました。」(男性・30代後半)
寄付をする前に、どのようなバックグラウンドがあって、ご支援に行き着いたのか?を立体的に捉えられるようになります。
例えば「ペルソナ」を作るなら、机上の空論ではなくリアリティのある寄付者像を描けるようになります。
そのうえで、自身の団体を知ったきっかけやその時の第一印象、ご支援を決めるまでの経緯を聞いてみましょう。
Google Analyticsなどの計測ツールや、お申し込み時のアンケートなどで定量的に把握していただけでは、わからなかったことが見えてくる場合もあります。¥
たとえば団体のことを知ってその時すぐに支援を決める方もいますが、後で寄付を申し込む方も少なくありません。
- 途上国支援について検索したら、Instagramで広告が表示されるようになった。何度かクリックしてページを見て迷っていたが、ちょうど時間ができた時、スマホで申し込んだ
- 街頭でFace to Faceの勧誘をきっかけに知り、その時は寄付しなかった。離婚を経て新生活で自由に使えるお金ができた時、団体名で検索してネットから手続きした
このようなケースが積み重なると、タッチポイントの設定やメディアごとの予算配分などを、現実の寄付者さんの行動に即して企画できるようになるでしょう。
パート2「寄付を決めた瞬間」の共感ポイントや不安を聞く
続いて寄付を決めた時に移りましょう。特にお聞きしたいのが、支援の決め手。
共感したポイントや、感情をぐっと揺さぶったトリガーをお聞きしていきます。
もちろん支援を始めて時間が経っていると、忘れている方もいらっしゃいます。
そこで、寄付を募る広告やWEBサイト、あるいはチラシやダイレクトメールなどを見せながらお話を聞いていくと、思い出してもらいやすくなります。
何人かの寄付者さんで共通する点があれば、ファンドレイジングのうえでも強調した方が良い訴求ポイントが見つかります。
続いて、不安を抱いた点や疑問を持った点はなかったか?もお聞きしましょう。
特に、それほど知名度が高くない団体の場合は、「怪しくないきちんとした団体か?」「寄付が適切に使われるか?」などを心配される割合も高まります。
それらの不安や迷いを解消できた情報がなにか?もセットで質問していきます。
「認定NPO法人とあったから」「スタッフが写真入りで載っていたから」「マスコミでも報道されていたから」などの声が聞かれたこともありました。
「Instagramの広告が目に止まり、◯◯◯◯◯(子ども支援のNPO)のホームページをみました。その時は申し込まなかったのですが、1回見ると何度も広告が表示されるでしょう。ホームページを数回は見て、1週間ほど迷っていました。「認定NPO法人」と書いてあったのを見て、認可されないとダメだから“まがいもの”ではないだろうと。途中でイヤになったらやめれば良いから、と月1,000円から寄付を始めました。」(女性・50代後半)
「◯◯◯◯(動物保護団体)は、Instagramで発信しているんです。「今日は九州で活動している」「1日で200頭も保護できた」「多頭飼育崩壊になりそうな状況をレスキューした」といった実績も見ていました。最後にホームページで団体概要や活動報告をチェックして、信頼できる団体だと確認しました。」(女性・60代前半)
「ネットで広告を見たのがきっかけで、◯◯◯◯◯(子ども支援NPO)への寄付を始めました。それまでは聞いたことなかったですが、食事や教育など支援活動がWEBサイトで具体的に載っていたので、「この団体ならきちんと活動してくれそうだ」と。寄付を決める前に、収支報告もチェックしたのですが、集めている寄付金が△億円に達していて、”大きい団体”だなと。私は企業で働いているのもあり、プラスのイメージを持ちました。」(男性・30代後半)
このように意思決定のプロセスをリアルにお話ししてもらうなかで、「こんなところが疑問視されるのか?」「それが安心材料になるんだ」といったコンテンツが見つかります。
団体の信頼度を高めるために効果的な素材で、漏れているものはないか?、寄付を申し込むまでの導線をチェックしていきましょう。
なお、WEBサイトやパンフレットなど見せながら説明していくと、寄付者さんが良かれとして「こう見せた方が良い」「あんな伝え方だと寄付は集まらない」など提言してくださることがあります。
ここで注意すべきは、「意見」や「アドバイス」を聞かないこと。
マーケティング・リサーチの世界では、ユーザーが意見として表明することと、購入や申込など行動に移すことは異なる場合が多い、と知られています。
あくまで一人の個人として、「どのような行動をしたか?」「その時に何を感じたか?」などを事実ベースで聞いていきましょう。
パート3「寄付をした後」のお礼や活動報告にフィードバックをもらう
最後に、寄付をした後の体験について伺っていきます。
「直後にお礼の連絡はあったか?」「使い道のご報告など覚えてらっしゃるか?」など尋ねましょう。
自団体としてはお礼や報告をきちんとしているつもりでも、寄付者さんからするとたとえば「誤ったメールアドレスを登録していた」など認識されていなかったり、異なる印象を抱かれていたりすることもあります。
「マンスリーサポーターに申し込んだけど、領収書が届くのが遅く、また問合せへの回答もなかったので‥」など苦言をいただくこともありますが、そこからオペレーションの見直しのヒントが見つかることもあります。
また、メールや郵送、SNSやLINEなど「どのチャネルで、どんなシーンでご報告をご覧になっているか?」を聞いてみましょう。
団体のスタッフとしては、想いをこめて活動報告をしているはずですが、寄付者さんの温度感はマチマチです。
私が年間30人弱に伺ったなかでは、「毎月楽しみに、メールボックスを必ず開封している」という人もいらっしゃるものの、「たまに時間がある時に、ざっと目を通している」程度の方が多数派でした。
現状をフラットに理解したうえで、既存ドナーとのコミュニケーションを企画するときにいかしましょう。
最後に、寄付をすることが、その人の生活にどのような影響があるか?を聞いてみましょう。
「現地に行って何かをできる訳ではないけど、恵まれた環境をただ享受するだけではダメ、私も何か役に立ちたい、とずっと思っていました。寄付を始めて「お金を出して貢献できるようになった」ことは、自信にもなりました。「徳を積む」ではないけど、日常でラッキーなことがあると、「もしかして募金したおかげかも」と幸せを感じる時もあります。」(女性・30代前半)
「国際NGOに寄付を始めてから、海外のニュースも聞き流していたのが、「あの子どもたちのことかも」と目を向けるようになりました。ニュースを見ている。支援している子どもが住む国の経済が発展したら、「子どもたちの生活水準も上がったなら、良かったな」と嬉しくなります。」(女性・50代前半)
「◯◯◯◯(女性支援NPO)から活動報告の封書が届いた時など、「私も人の役に立てている」と実感します。「ミシンを使って、バッグを作れました。」「裁縫をできるようになりました。」など自立していく姿を目の当たりにできると嬉しくて。私も仕事がつらかったり、「朝だるくて行きたくないな」と思ってしまう時もあるけど、「きちんと働いていて寄付できていて偉いな」と自分を褒めたくなります。寄付することが、張り合いにつながっています。」(女性・50代後半)
このように善行をすることで、ご自身の生活の張り合いが出たり、精神的に満たされている感覚など、幸福度にポジティブに働いていることを話してくださる方もいらっしゃいます。
寄付者さんから与えられているだけではなく、自分たちも幸せに貢献できていることは、スタッフにとっても励みになるでしょう。
ここまで順を追ってお話を聞いていくと、45分から60分近くになることが多いです。
その人の人生の話も入り混じり、話し終わった頃には、距離も近くなっていることでしょう。
「寄付者中心」のファンドレイジングへ、スタッフの意識変化のきっかけにも
これまでドナーインタビューの目的やメリット、具体的なやり方を説明してきました。
最後に、組織やカルチャーへのポジティブな影響についてお話しさせてください。
寄付収入が成長して、それにともないファンドレイジング部門の組織規模も拡大する。
それ自体は喜ばしいのですが、同時に「寄付者さんが忘れられてしまう」ということが起こりがちなことに、個人的に課題感も抱いてきました。
ファンドレイジングを始めたばかりの頃は、寄付者さんと直接やりとりしながら、お一人おひとりの想いや人となりを実感する機会もあるはずです。
しかしマーケティングやオペレーションの仕組みができてくると、たいていの案件は事務的なコミュニケーションで完結するようになってきます。
コロナ禍もあって「入職してから2年間、寄付者さんと対面でお話ししたことがない」というスタッフの方もいました。
生身の人としてではなく、“数字”として寄付者さんを認識する度合いが高まってきます。
また、寄付者さんの数が増えると、要望やクレームをもらう機会も増えます。
「私たちの活動をきちんと理解してくれてない」「面倒なことを言ってくる人」といったニュアンスで、寄付者さんのことが語られた場面に居合わせ、悲しい気持ちになったこともあります。
そんななか、寄付者さんお一人おひとりの想いや人となり、ある意味人生のストーリーをお聞きすることが、名前と顔のある生身の人間にご支援いただいていることに改めて気づかされる機会になることもあるようです。
- 自分では気づけなかった、団体の魅力を語ってくださる
- ご自身の原体験や、世の中に貢献したいという気持ちを伺う
- 寄付をすることが、その人の人生でどんな意味を持っているか?をお聞きする
そういったプロセスを経て、「この寄付者さんには、こんなお礼をしたい」「今度あのことを伝えたら、喜んでくれるのでは?」といったように、寄付者さんを中心に添えたコミュニケーションが生まれるきっかけになったこともあります。
寄付者さんを「目指す社会を一緒につくる仲間」として捉えるようにと、意識が変わっていったスタッフの方もいるようです。
団体の規模が大きくなると、ファンドレイジングと事業部門など部門間、あるいはファンドレイジング部門の中でもチーム間で目標の違いやセクショナリズム、意識の分断なども起こりやすくなってきます。
そんななか、「“寄付して良かった”と寄付者さんに感じてもらう」「気持ちよくご支援を続けてもらう」といったテーマを据えると、立場を超えて1つの目的に向かいやすくなるかもしれません。
ファンドレイジングの成果を挙げるためにも、個人の能力を高め組織の文化に良い影響を与えるためにも、「一人ひとりの寄付者さんに向き合い、話を聞く」にぜひ取り組んでみてください。