「遺贈寄付者の50%は、団体に寄付履歴がない人だった」という海外調査
ご生前から団体を支援してきた既存ドナーが、最後に遺贈でも寄付する。
このような流れは、「遺贈寄付はドナーピラミッドの頂点」という言葉とともに、ファンドレイザーの皆さんにも、よく知られているでしょう。
しかし実際には、これまで接点のなかった方から遺贈寄付の問い合わせを受けたり、亡くなった後に「故人が遺言書に貴団体への寄付について記していました」とご遺族や代理人の方から連絡を受けたりする事例も少なくありません。
海外のデータになりますが、英国での遺贈寄付を受け付けている団体への調査では、「遺贈寄付をした人の50%が、過去に団体への寄付履歴のなかった人々(ボランティアや過去のスタッフなどは含む)だった」と発表されました。
(遺贈寄付専門コンサルティング会社「Legacy Futures」のシニアコンサルタント、Lena Vizy氏による、「IFC2023」での講演より)
国内でも、「受遺団体のための遺贈寄付の実態調査2023」(株式会社ファンドレックス・全国レガシーギフト協会の共同調査)によると遺贈寄付の問合せを受けるにあたって、「効果(特に件数の増加)を感じた媒体/接点」について、新聞・雑誌等の「広告」や士業・金融機関等との「繋がり」など、既存ドナー以外の接点も上位に上がっています。
それまで団体とは接点がなくても、「遺贈寄付を検討している」人に寄付先の候補として知ってもらい、比較検討の対象にしてもらう確率を高めることが、重要になっているのです。
見込みドナーから問合せをもらうための、2つのチャネル
このように遺贈寄付を検討している方々に選んでもらうためには、どのようなアプローチをとればよいのでしょうか?
「ダイレクト」と「紹介」の2つのチャネルについて、概観しましょう。
チャネル1:ダイレクトでのリスト獲得
1つ目は、遺贈寄付を検討する高齢者層にアプローチして、団体が見込みドナーを獲得。直接コミュニケーションしていく方法です。
例えば「文藝春秋」や「週刊新潮」などの雑誌、あるいは「朝日新聞」「日本経済新聞」などの新聞で、遺贈寄付の広告をご覧になったことがある人も多いでしょう。
これは「連合広告」と呼ばれる手法で、遺贈寄付についての特集ページを数ページあるいは一面で確保。
広告を出稿する団体が、アピールの写真や資料請求を決められた枠の中で掲載します。
遺贈寄付に関心のある読者が資料請求をすると、各団体の資料がそれぞれ送られるという流れです。
その後に、郵送や電話などで各団体が見込みドナーとコミュニケーションできます。
資料請求にあたっては、「QUOカード500円分プレゼント」などインセンティブを設けるメディアも。
「資料をまずは取り寄せよう」といった温度感の人も少なくないと想定されるものの、潜在的な見込みドナーを幅広く募集する、という意味では効果的なようです。
遺贈寄付は高齢者がターゲットということもあって、オフラインのメディアが多いですが、60-70代にもスマホが浸透していくにつれて、デジタルメディアでの寄付募集も増えています。
特に相続財産からの寄付については、相続した方も30〜50代など相対的に若い方も多いので、「Google等で検索して調べていたら見つかった」というケースも多いようです。
各団体がGoogleやMeta(Facebook等)などに自団体で広告を出稿するほか、遺贈や相続財産の寄付をテーマにしたオンラインのメディアや記事も増えました。
たとえばgooddo株式会社は、SEOやリスティング広告、あるいはシニア向けサイトでのディスプレイ広告などからユーザーを集客して、登録団体の資料請求を一括で受け付けるサービスを実施。
1ヶ月に30件前後の資料請求が寄せられているようです。
チャネル2:金融機関や士業からの紹介
続いて、金融機関や士業の方々、あるいは中間支援団体などからの「紹介」です。
信託銀行や銀行などの金融機関が、顧客の資産管理や相続対策の依頼を受けているなかで遺贈寄付についても相談を受け、金融機関の担当者が窓口となって資料請求や問合せを代行する場合があります。
弁護士や税理士、行政書士など“士業”の専門家が、遺言書作成などをサポートしている場合も同様です。
ご本人からの要望を受け調べた団体やあるいは士業の方が既に知っていた団体などを、顧客に寄付先の候補として紹介することもあります。
(私がお話しした司法書士の方は、情報収集した候補先について資料をまとめ、ご本人との面談で意向を確認していました。)
相続や遺言について具体的な検討・決定のプロセスにある、“顕在度”の高い方々が多いので、遺贈の決定や執行に短期間に至りやすい傾向もあります。
「受遺団体のための遺贈寄付の実態調査2023」によると、遺贈寄付を受け付けている非営利団体へのアンケートで「ご相談が生まれている関係先」として、以下が上位に上がっていました。
- 1位:司法書士から(52%)
- 2位:信託銀行から(50%)
- 3位:信託銀行以外の金融機関から(42%)
- 4位:弁護士から(37%)
- 5位:支援者から(37%)
- 6位:遺贈寄付の紹介を行う専門会社から(31%)
- 7位:行政書士から(22%)
- 8位:税理士から(20%)
また専門会社や中間支援団体が、遺贈寄付検討者から相談を受けて、寄付先の紹介を手がける事例もあります。
たとえばクラウドファンディングで有名なREADYFOR株式会社は、遺贈寄付をサポートするサービスを展開。
寄付先選びのアドバイスや団体とのマッチング、不動産や包括遺贈も含めた寄付の受け入れをしています。
事業開始から3年間で約1,000件のお問合せを受け、遺言書の作成に至るケースも少なくないようです。
このように金融機関や士業の方々が遺贈寄付先の決定に少なくない影響力をもっているなか、団体について紹介をしてもらえる関係性をどのように築いていけばよいのでしょうか?
大手国際NGOのなかには、士業事務所にDMの郵送や架電・面談などをしていき、ネットワークを独自に築こうとしている団体もあるようです。
また一般社団法人日本承継寄付協会は、遺贈寄付の方法や寄付先をまとめた冊子、「えんギフト」を発行。
公証役場や介護施設での設置や司法書士事務所からの資料請求など、累計15,000部以上を配布して、主に士業の方々とその顧客が寄付先を検討する際に活用されています。
チャネルごとの一般的な傾向
資料請求や問合せから遺言・執行まで、“パイプライン管理”
このように接点を持つことのできた見込みドナーと、最終的な遺贈寄付までどのように関係性を育んでいけばよいのでしょうか?
遺贈寄付では、寄付先の検討から遺言書の作成、ご本人が亡くなり遺言が実行されるまで、それぞれのステップで期間がかかります。
見込みドナーを募集するため広告費・協賛費や人的コストを投資して、問合せや資料請求につながっても、「遺言や執行まで転換したのか?」はタイムリーには見えず、その本当の効果が判明するのは随分後になります。
「プロモーションの効果が本当にあったのか?」が時間差でしかわからない、すなわち成果のモニタリングや費用対効果の管理が難しいのです。
そんななかでも、寄付者との関係を長い期間をかけて適切に築き上げ、将来的に得られる寄付収入に関して計画を立てていく。
そのような目的のもと、欧州やオセアニアなどで実務で活用されているのが、「パイプライン管理」の仕組みです。
施策を実施した直後に測定できる成果(コンバージョン)は、リード(潜在的な寄付者)の獲得という形です。
このリードがどれだけ具体的な案件や遺言、遺贈の執行にまで発展するかを
- 資料を請求しただけの人
- 問い合わせをいただいた人
- 寄付を検討中で担当者とやりとりしている人(ご家族と相談中など)
- 遺贈寄付の意向をもらった/遺言に残した人
- お亡くなりになった人(生前に寄付意向あり)
このようにフェーズごとに見込みドナーを分類して、四半期ごとなどに各フェーズに何人の方々がいらっしゃるのか?の推移をモニタリングしていくのです。
「遺贈寄付の取り組みは、すぐに結果は出づらい。ある程度の規模感になるまで、5年間はかかる。したがって進捗を可視化するのが大事」
豪州で開かれたカンファレンス(FIA Conference 2020)を訪ねた際に、環境NGO「グリーンピース」のファンドレイジング部門の方の講演後にリードタイムについて個別に質問したところ、このような答えが返ってきたのが印象に残っています。
したがって大事なのは、すぐに寄付には至らなくても、一度遺贈寄付の関心を示してくださった方には、定期的にコンタクトを取り続けること。
ある緊急災害支援のNGOでは、資料請求などで登録してくださったドナー専用に、定期的にご案内メールを出していました。
このような長期的な関係構築を通じて、5年間などのスパンで遺贈寄付のプログラムが育っていくか?
それらをトータルに振り返り、投資対効果を判断していくのです。
組織規模にも左右されやすいなか、団体に合った戦略を立てる
これまで2回にわたって、遺贈寄付に関心のある方を、既存ドナーおよび新規で募り、関係性を育んでいく方法をお伝えしてきました。
しかし、全ての団体が遺贈寄付に注力した方がよいか?すなわち経営資源を割いていった方がよいか?というとそうではないとも、個人的には考えています。
1つ目の理由は、前章でも述べたように、問合せから遺言執行までの期間が長いこと。
投資から回収までのリードタイムが長く、また施策の効果を確かめるにも長い期間がかかります。
さらに、先ほど述べたパイプライン管理にも、コンテンツ制作やデータベース整備、KPI管理などに、決して少なくない工数と知識が必要となります。
2つ目の理由は、通常の寄付と比べても遺贈寄付は、大学や自治体、協会組織や大手NGOなど、有名で大規模な組織に集まりやすい傾向があることです。
「遺贈寄付募集の取り組みには長い時間が必要とされること、寄付先としての長期にわたる経営の安定性が(特に弁護士などから)好まれること、税控除が考慮されることなどからは、遺贈寄付が通常の寄付よりも大手の団体に偏ることが想定される」という見解もあります。
(「人々は遺贈寄付をする団体をどう決めているのか」Academic Research on Donations(日本寄付財団)渡邉 文隆より)
通常の寄付では、団体の活動を知って生まれた感情的な共感が先にあり、寄付というアクションに結びつくことも多いのに対して、遺贈寄付では寄付すること自体が先に決まり「寄付先を選ぶ」という順をたどることもあります。
特に紹介チャネルでは、金融機関や士業の方々も「間違いがあるといけないので、歴史や規模などから信頼できる団体を推薦しよう」という心理的なバイアスも働きやすいようです。
このような傾向のもと、年間予算規模数十億円以上なら大規模な団体は、広告などダイレクトチャネル・金融機関や士業の方などからの紹介の両面で強化していく、フルファネル戦略をとるのも合理的でしょう。
一方、まだ小規模な団体については、まずは一般の寄付者からの都度寄付やマンスリーサポーターでの寄付、または経営者や資産家の方などからの大口寄付(メジャーギフト)を中心に伸ばしていき、遺贈寄付にも徐々にリソースを配分していく、という流れがよいかもしれません。
遺贈寄付を強化していくにあたっても、リソースによっては以下のように範囲を絞って実施していく方法もあります。
- 自団体のWEBサイトやパンフレットなど「受け」を整備する
- 既存ドナーとのドナーピラミッドの構築に専念する
- 顕在度の高い問合せの多い、紹介チャネルに注力する
遺贈寄付を検討している方々の市場全体にはアクセスできなくても、既につながりのあるご支援者、あるいは特定の分野や地域などで探している人に想起してもらえ、選ばれやすくなる状況をつくっておくのです。
「老老相続」に代表されるように、ご高齢の方々に富が偏在し固定化してしまっている状況は、日本の社会課題としても知られています。
上の世代の方々が築き上げられてきたご遺志を生かし、次世代に役立てていくための有力な手段の1つという意味で、遺贈寄付は個人的にも思い入れが深い分野です。
団体のなかで担当される人や専門家の方々とも交流・意見交換をしながら、これから注力して取り組んでいきたいと考えております。