社会課題や活動について理解を深め、「なぜ支援が必要か?」に納得してもらう。
「ここに寄付して大丈夫?」といった寄付の使い道への不安を払拭して、団体を信頼してもらう。
そして「コンバージョン」、すなわち寄付の申し込みや決済に至ってもらうまで、メッセージの流れを一貫して設計することが大切です。
オンラインでの寄付募集にあたって重要な、広告やSNSなどから寄付者が訪れるランディングページ(以後、LP)を念頭に、訴求力を高める5つのポイントを解説します。
ポイント1:社会課題をリアリティをもって実感してもらう
寄付の呼びかけにあたって押さえておきたいのが、いきなり団体の紹介や、支援の依頼に入らないこと。
取り組む社会課題をきちんと語り、その解決策として「どのような活動をしているのか?」と順に説明していきます。
そこで大事なのは、社会課題(イシュー)についてリアリティをもって実感してもらうこと。
苦境にいる方々の尊厳への配慮を前提にしながらも、状況の深刻さを一般の方々にも伝え、「こんなことがあってはならない!」「なんとかしなければ・・」「助けになることをしたい」と肌感覚を抱いてもらうのです。
社会課題の深刻さを示す材料というと、定量的な統計データが思い浮かぶ方もいらっしゃるかもしれません。
「課題がたしかに存在する」裏付けとして、もちろん統計データは活用できます。
ですが、単に数字を挙げるだけでは、理屈としては分かるけど「気持ちが動かない」「ピンとこない」となってしまいがち。
社会課題を“自分ごと”としては、捉えてもらえません。
このような傾向は、“Identifiable Victim Effect”と呼ばれ、脳科学の研究でも実証されています。
たとえばマリ共和国のRokiaという名の1人の飢えた子どもの写真を見せられた人々は、驚くほどの気前の良さを示した。
これに対し、アフリカ全土の飢餓に関する統計データのリストを見せられた2つ目のグループは、申し出た寄付金の平均額が50%低かった。
(「統計よりも『1人のストーリー』が有効な理由」より)
統計データの難点は、私たちの道義的感情に訴えかけないこと。
厳しい現実を数字で見せられても、人間の心はそこまで規模の大きな苦しみを理解できず、心が動かないそうです。
個人向けのマーケティングの基本ルールは、まずは論理ではなく感情を揺り動かすこと。
そのために、過去の記事で述べた「受益者のケースストーリー」など具体的な情報も交えつつ、課題の深刻さを直感的に理解してもらえるよう努めましょう。
なお、このような“課題推し”の必要性は、テーマによって強弱があります。
たとえば「紛争地での難民支援」や「災害の緊急支援」、あるいは「命の危機にある患者を救う医療」といった活動は、メディアでの報道や社会的な通念から“支援を必要としている”とイメージできる方が多いでしょう。
そのような場合は、課題の説明はコンパクトにとどめて、その団体の活動や寄付の使途の説明に早く入るのが得策です。
一方、課題の深刻さが一般的に認識されにくい分野では、入念に伝えた方が良いでしょう。
- 場の困難な様子が、視覚的に伝わる写真やイラスト
- 被害を受けた方や苦しむ方からの、声やコメント
- 一般的な日本人にも直感的にわかりやすい、たとえや例
冒頭でも述べた「尊厳への配慮」あるいは団体としての「レギュレーションの遵守」を踏まえつつも、上記のような表現も交え伝えていくのです。
一般の方々には馴染みのない課題を、リアリティをもって理解してもらえるよう努めましょう。
ポイント2:活動内容はシンプルに絞りこむ
続いて大事なのが、活動をシンプルにわかりやすく説明することです。
LPを制作するとき起こりがちなのが、「何をしている団体か?」が冗長になり、分かりにくくなってしまうこと。
事業に長く携わってきた方や団体に思い入れのある人ほど、いずれの活動も大事に思え、「ひとことでは言えない」とカットできないのです。
ですが、団体について初めて知る人に「あれもこれも」と伝えても、逆に混乱させてしまいます。
例えば「途上国の子どもに(誰に)、医療を(何を)届けている」など、できるだけ短く端的に表現しましょう。
この絞り込みにあたって、必ずといってよいほどあがるのが、「〇〇だけをやっている団体ではない」「単純化しすぎるのはミスリードだ」という意見です。
もちろん複数の活動をしている団体が、1つの活動だけを伝えて寄付を募るのは誠実さに欠けます。
特に寄付の使途を「団体の活動全体」とする場合は、全体的な活動内容や団体のミッションなども、しっかりと説明すべきでしょう。
しかし、見せ方次第では、「分かりやすさ」と「正確さ」はある程度までは両立できます。
たとえば、1つの活動をメインで強調しつつ、残りの活動は「他にもこんな活動をしています」など強弱をつける方法もあります。
それぞれの情報の主従関係をつけ、強弱の処理などデザインを工夫しましょう。
他にも、複数の活動がバリューチェーンになっている場合は、ステップ1〜3などと並べると分かりやすいかもしれません。
その場合は、「つまり○○をしています」と3つのステップを総合してカバーできる、表現を探しましょう。
活動全体を伝えながらメリハリをつけ、押し出したい活動に焦点を当てる。
あるいは、それぞれの活動の関係性を視覚化して、全体感が分かるようにする。
「分かりやすさ」と「正確性」をバランスできる地点を模索します。
ポイント3:小さな達成と、新たな支援の必要性
課題と活動に続いて伝えるべきが、「成果」。
社会課題に対して、あなたの団体が活動に取り組んだ結果、どのような違いを生めたか?です。
この成果をしっかりと示せれば、「私の寄付も有効に使ってくれるはず」という印象を抱いてもらえます。
成果というと、“インパクト評価”や“ロジックモデル”といった文脈で語られるように、「定量的に実証された数値」「アウトプットやアウトカムではなく、インパクトが重要」といった連想をされる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、ファンドレイジングの文脈では、必ずしもそうでなくても構いません。
第1に覚えていただきたいのが、定量的なデータではなくてもよいということ。
その理由は、社会課題でお伝えしたことと共通していますが、「直感的に理解してもらえる」「ピンときてもらえる」が大事であるから。
「○○人に届けた」「△△個贈った」といった定量的な結果はもちろん、「受益者の声」や「地域住民から喜びの声」など、定性的な評価も交えて分かりやすく伝えましょう。
2つ目は、「小さな達成」でもOKということです。
成功体験は大事なのですが、それによって「問題がすべて解決された」と誤解されてしまうと、寄付が必要という気持ちも薄れてしまいます。
そこで、例えば「達成した結果、新たな課題も見えてきた」といったように、今後の支援の必要性も合わせて示せると良いでしょう。
「今あなたの支援が求められている」という“余白”を残しておけないか?意識してみてください。
ポイント4:「ドネーションサンプル」で使途のイメージを
4つ目のポイントは、寄付の使途。
「私の寄付したお金が、どう役立つか?」をイメージしてもらうことです。
使い道をわかりやすく伝えるため、典型的に使われるのが「ドネーション・サンプル」。
「5,000円で、途上国の子どものためのワクチン30人分を」といったように、寄付金額あたりに換算して、届けられるモノや実現できることを示す手法です。
物資を届ける支援については、このような例を示しやすいでしょう。
しかし、教育や福祉などヒトが介在する度合いの大きな支援については、「○○円でxxを届ける」と、単純にモノや数字に分解できる訳ではありません。
スタッフの人件費や事務所の家賃など、寄付の使い道として直感的な理解を得にくい費用が支出の多くを占めることもあります。
そのような場合でも、活動の一部でも分かりやすく換算できる費用があれば、「例えば」といった表記をしたうえで、具体例を見せることはできるでしょう。
例えば、「事業全体にかかった費用」÷「支援を届けた受益者の人数」という計算をすれば、受益者1人あたりの費用が出ます。
「月3,000円あれば、1人のシングルマザーを支援できます」といったように、分かりやすく換算もできるはずです。
寄付をする方は、対価として形のあるモノを受け取る訳ではありません。
「私の出したお金が、困っている人に届く」という感覚を抱きにくく、不安を抱く方もいらっしゃるでしょう。
したがって、私が寄付をしたら「どのように役立つのか?」や「何が変わるのか?」といった疑問に直感的に答えられると、寄付の決断を後押しとなるはずです。
「例えば〜」や「〜に換算したら」といった表現の工夫で、できるだけ身近にわかりやすく理解してもらえないか?知恵を巡らしてみましょう。
ポイント5:「信頼に足る団体」である証拠を列挙する
最後に大事なのが、団体を信頼してもらうこと。
「寄付がきちんと使われるのか?」「ここに書いてあることは本当なのか?」といった不安を解消して、寄付の申込や決済まで安心して行動してもらうことを目指します。
特に知名度の低い団体の場合は、「初めて聞いた団体に寄付をする」はハードルも高いもの。
あなたの団体が“信頼に足る組織”という証拠、不安を解消する要素を「これでもか」と感じられるほど提示しましょう。
そういった“信頼性要素”を集めるうえで意識しておきたい1つ目の観点は、「自分からアピールする」のではなく、「周りから評価されている」事実を提示すること。
たとえばマスメディアでの掲載や受賞歴、公的機関や大企業との連携の実績などは、「社会的証明」として有効でしょう。
認定NPO法人や公益法人といった法人格をそなえている団体なら、“行政からのお墨付き”という証拠となります。
2つ目の観点は、スタッフなど人の「顔が見える」ようにすることです。
たとえば「支援者の声」をお名前と顔写真入りでメッセージを掲載したり、代表はもちろんスタッフのメッセージや写真を載せたり、といった方法です。
ネット上の“架空の存在”ではなく、リアルな実態があることを示し、安心感を抱いてもらいます。
3つ目の観点は、透明性をもった情報開示。
たとえば財務諸表はじめ会計情報の公開や、支援者への報告の方法や頻度、住所や電話番号の記載などです。
領収書や寄附金控除、退会・解約など、よくある質問にはFAQで答えましょう。
知名度の低い団体でも、このように「団体としての実態があること」「活動が多くの方々に認められていること」「寄付者の声に誠実に応えること」を示すことで、大切なお金を預ける、信頼に足る団体という印象を持ってもらえるのです。
まとめ:チャネルや団体の固有の状況に合わせ、応用を
これまで5つのポイントを解説してきましたが、ご自身の団体に当てはめてみて、いかがでしたか?
もし抜けている要素や、「こんな伝え方もあるのでは?」といったことが思い浮かびましたら、ぜひ実行に移せないか考えてみてください。
今回は、オンラインでの寄付募集にあたって重要なLP(ランディングページ)を例にご説明しましたが、申込フォームでも“最後のひと押し”として、ドネーション・サンプルや不安解消要素をコンパクトに挿入するのも有効です。
LPを訪れる前にユーザーが見る広告の動画やSNSの投稿でも、社会課題はもちろん活動や成果についても一部は触れます。
- 広告では、個人のストーリーを通して語る
- LPでは、団体を主語として訴える
と区分けすると、「重複していて煩わしい」とユーザーに捉えられることなく、伝わりやすいでしょう。
今回解説したポイントは、ダイレクトメールや講演などオフラインでの呼びかけにも当てはまると、私の経験から捉えています。
寄付募集のメッセージをゼロから作っていくとき、ぜひ参考にされてみてください。