企業からの転職者の候補になりやすい団体は、“中小企業並み”の平均年収?
NPOの平均給与について最新の統計は調査されていないようですが、参考になりそうなデータを2つご紹介します。
1つ目は、2014年に内閣府が発表した「平成27年 特定非営利活動法人に関する実態調査」。
この調査によると、NPO法人の「正規職員」の年間給与額は、「平均的な人の平均値」で約260万円でした。
ただしこの統計の調査対象には、団体の年間収入(=企業でいう年商)が5,000万円以下の団体が約9割を占めています。
「草の根」で活動するなど地域の小規模な団体も多く含まれると推測され、企業からの転職を検討する方の選択肢には上がりにくい団体が多いでしょう。
そこで2つ目に参考になるのが、2017年に実施された「ソーシャルセクター組織実態調査 2017」です。
調査をしたのは、NPOのほか社会的企業など130団体が加盟する「新公益連盟」。
認定NPO法人であるフローレンスやカタリバ、ピースウィンズ・ジャパンなど業界では規模の大きな団体が参加しています。
44団体の経営者・人事責任者からの回答で調べたデータですが、全体としての平均年収は383万円。
- 一般職員は、平均339万円。
- 管理職は、平均463万円
- 経営層は、平均574万円
とポジションが上がるにつれて年収も増えていることがわかります。
同じ時期に、中小企業の一般職員の平均年収は292万円。
ソーシャルセクターの平均年収は、営利企業である一般中小企業と比較しても遜色ないことがわかります。
ただし、2つ目の調査を実施した新公益連盟に加盟している団体は、求められる人材の要件やレベルも高い団体が、一般的な中小企業と比べると多い印象です。
大手企業出身者や有名大学卒業者など、人材市場で評価を受けやすい人材も多く在籍しています。
転職市場で一般的な企業を選ぶなら年収500万円以上、なかには1,000万円以上稼げるような人材も少なくないはずです。
あくまで主観ですが、「大企業や有名ベンチャーなどで働けば得られる年収と比べると、50-80%程度になることもある」と1つの目安として頭においてもよいかもしれません。
NPOやNGO業界といっても、給与水準は組織規模によってさまざま
先ほどの例のように統計データによるばらつきが出るのは、なぜでしょうか?
調査時期やサンプルの取り方、集計の基準などにもよるかとも思いますが、組織規模や団体のタイプによる違いが出ていることも背景にあると、筆者は推測しています。
なぜなら、「企業」あるいは「〇〇業界」といってもひとくちに言えないように、NPOやNGOといっても組織の規模や業界、職種などによって給料は大きく異なるからです。
ざっくりとした分類ですし当てはまらない例も少なからずありますが、以下の3つに分けると、解像度を上げて把握する参考になるでしょう。
タイプA「草の根団体」
はじめに「草の根団体」は、一般の方々が「NPO」と聞いてイメージする姿かもしれません。
手弁当で参加するボランティアスタッフや学生インターンが多く、常勤職員が0人もしくは創業者のみ、という団体も少なくありません。
企業の売上にあたる「年間収入」は年間で数百万円から数千万円程度。
人事制度も整っていませんし、給与で期待できるのは最低賃金+α程度と覚悟しておけるとよいでしょう。
職員の求人採用も、積極的にはしていない団体がほとんどです。
一般的な「転職」というよりは、ボランティアやインターンなどで活動に携わっていた方が、フルタイムスタッフになるケースが多いです。
タイプB「国内発NPO」
続いて、企業と同じようにきちんとした組織として事業を行っている、国内発のNPOです。
年間収入で1億円を超えると、常勤の正職員や契約職員も数人程度はいることが多いですし、5-10億円程度の団体は増えてきました。
分野や業態にもよりますが年間10億円を超えると、職員が100人を超えることが多いですし、なかには「メガNPO」と言われる300名以上の大組織も出てきました。
「企業から、NPOやNGOに転職する」という時に、転職先として選択肢に上がりやすいのは、このタイプBが多いようです。
20世紀から活動を続ける伝統的な団体は「中小企業」のイメージと近いかもしれません。
21世紀に設立されこの10年間で規模を成長させた団体も多く、「ベンチャー企業」になぞらえられます。
給与は企業の水準と比べると低く、企業から転職すると5-8割程度になってしまうことが多いでしょう。
一方、特に近年成長した「ベンチャー」にあたる団体では、職階や給与テーブル、福利厚生など人事制度を整え、働きやすい環境を整える団体も増えています。
タイプC「グローバルNGO」
タイプCは、グローバルに活動する国際NGOの日本支部です。
小規模の団体もありますが、年間収入で10億円を超える団体も多く、なかには100億円を超える団体も。
「外資系企業」と同じように、本部の参加のもとで、日本にもオフィスを置きローカルスタッフを雇用しています。
給与水準はタイプBと変わらない団体もありますが、マネジメントのポジションだと年収700-800万円など高めの金額で募集をかけている団体も見つかります。
国際協力の分野では、現地での支援活動は日本で行っていない団体も多く、その場合に日本法人の主な役割は、資金集めや啓発・広報となります。
企業から転職する方もいますが、団体やポジションも多くはありません。
優秀な人材に働き続けてもらうため、給与を上げる動きも
ただし、先ほどの調査から6年間が経過して、NPO・NGO業界でも「人材により投資していこう」「給与をあげることで優秀な人材を採用しよう」といった動きが強まってきました。
- NPO側で事業規模が成長して、寄付や事業収入など原資が増えたこと
- 給与テーブルや昇級昇格ルール、福利厚生など人事制度が整備されてきていること
- 世の中全体が人材不足にともない、給与が上がる流れもあること
などを背景に、「優秀な人材に長く働き続けてもらいやすい条件を整えることで、社会により大きなインパクトを出していこう」と考える団体が増えているようです。
世の中一般の流れと歩調を合わせてになりますし、あくまで個人的で定性的な観測結果ですが、2017年の調査当時よりは10-30%程度は高くなっているようにも見えます。
たとえば認定NPO法人フローレンスは、「事務系スタッフの大幅な処遇改善を実施した」と2022年10月に発表しました。
サブマネージャー(フローレンスでは平均41歳、社歴平均5.9年が中央)においては、日本の平均年収433万円を上回るそうです。
また認定NPO法人D×Pは、全職員に5%の賃上げ(ベースアップ)を行ったと発表しました。(出典:DxP HP)。
DxPの会計報告によると2019年度の経常収益は5,272万円ですが、2020年度は8,850万円となっており、約1.7倍に増加しています。
所在地である「大阪府の平均給与」をめざして職員の給与を上げられることを目標としています。
転職時の初年度年収と、入社後の伸び幅
では、企業などから転職する方は、1年目にどの程度の年収をもらえるのでしょうか?
あくまで目安となりますが、弊社サイトで2023年1-4月に掲載していた求人(募集終了含む)について、「300万円以下」「300-400万円」「400-500万円」「500-600万円」「600-700万円」「700万円以上」に分けて、集計をしてみました。
(給与については人によって幅がありますし、したがって複数の年収帯に当てはまる求人もあります。あくまで目安となることをご了承ください。)
弊社サイトの求人では、400万円台に多く集まっていることがわかります。
あくまでお一人ひとりの経験やスキル、前職年収または団体ごとの給与体系や該当するポジションなどによりますが、ソーシャルセクター専門の人材エージェントとして、弊社で求人をお手伝いしている限りでは、
- 新卒や第二新卒:300万円台前半〜後半
- 一般職員(社会人経験3年以上):300万円台後半〜400万円台前半
- マネジメント職:400万円台後半〜500万円台後半
といった金額帯が多い感触です。
なお公募は少ないですが、経営レイヤーや希少な職種の部門責任者などについては、上記の金額以上になることもあります。
上記ですと民間企業と比べて低いように思えますが、特筆したいのは「入社(入職)時の年収は低くなりがち」ということです。
企業での転職でも同じですが、特にNPOの場合は顕著のように思えます。
なぜなら企業で活躍していても、非営利セクターで活躍できるかは未知数と見なされやすいから。
それもあって、マネジャーなど管理職に転職時にいきなり就く割合も、多くはないからです。
一方、小さな規模の組織が多い&マネジャー不足が多いため、入職後半年から1年などで昇格するケースも少なくありません
私自身も、一般職員として新卒とほぼ変わらない給与で転職。3ヶ月後に諸事情あって「部長」に昇格し、1.5倍以上に昇給した経験があります。
また、額面の年収を多くは出せないなか、優秀な人材を惹きつけるために、NPOの多くは副業には寛容です。
私自身もNPO在籍時には副業によって、収入減を補っていました。
このように年収は減少になることが多いと思いますが、それでもやりたいことのため転職するという方は、
- 共働きのパートナーとで、収入とやりたいことをそれぞれ優先する時期を補い合う
- 「3年間はコミットする」など期間を決めて、チャレンジする
- NPOやNGOに勤めた後、フリーランスとして独立して外部から支援する
といった方法をとる場合もあるようです。
2030年に向けたトレンドを予測
最後に今後の将来ですが、NPO・NGOの給料は上がっていくと予測しています。
ポジショントークにどうしてもなってしまう側面もあるので、割り引いて捉えていただければと思いますが、先ほどの業界のトレンドに加えて、
- NPO・NGO業界全体としての市場規模が大きくなっており、売上にあたる収入規模が成長している団体が多いこと
- 非営利団体が給与を出すことへの社会的な理解も進みつつあること
- 「ソーシャルビジネス」や「インパクトスタートアップ」など社会貢献性の高い事業を行う企業との、人材獲得競争も激しくなっていること
- 米国のNPOでは、経営層やマネジャーでは年収1,000万円超を出す団体も少なくないこと
などから、今後の上がり幅はあるのでは、と15年程度は業界の動向を見るなかで予想しています。
もちろん、希望の年収をすぐ簡単に得られやすい業界かというと、全くそんなことはありません。
一方、インタビュー記事にも載せていますが、さまざまな働き方やキャリアを組み合わせて、長期間でやりがいと給与を両立している方もいます。
あなたに合ったキャリアが見つかる一助に、この記事がなればと願っております。