米国では8億円寄付の事例も!NFTチャリティが盛り上がり
2021年3月、アメリカである芸術家による寄付がニュースになりました。
Beeple氏が、“OCEAN FRONT”と題した自身の作品を「NFT」として、チャリティオークションで販売。
その売却益の600万ドル(約8.4億円)を全額、”The Open Earth Foundation”という気候変動対策に取り組む非営利団体に寄付したのです。
(Coinspeaker「Beeple’s NFT ‘Ocean Front’ Sells for $6M, Proceed to Be Donated to Charity」より)
NFTとは、Non-Fungible Token(代替不可能なトークン)の略称。
たとえば有名アーティストが「アルバム未収録デモ」の音源を販売する、スポーツチームが「名シーンの動画」を限定販売する、といったように活用されています。
絵画やコレクションなどの売却益を寄付する「チャリティ・オークション」は、伝統的に開かれてきました。
NFTを活用した寄付も基本的には同じ仕組みですが、異なるのは継続的に寄付が発生する仕組みを作れること。
NFTには、「持ち主が転売するたびに、その価格の1%が寄付される」といったプログラム(=スマートコントラクト)をアーティストなど持ち主が設定しておけます。
したがって、NFTがたくさんの人々の手に渡っていくほど、善意のお金が自動的に流れるようにすることもできるのです。
このようなチャリティオークションのほかにも、NFTや暗号通貨(ビットコインなど)を活用したファンドレイジングの動きは、米国で盛んに報じられています。
2020年から21年にかけてビットコインはじめ暗号通貨の価格が高騰し、NFTもブームになっていた時期には、特に盛り上がりを見せました。
日本の団体でも、「ソーシャルベンチャー」とも呼ばれる中小規模のNPO法人が、SNSなど活用しながら先行して取り組んでいる印象です。
- NFTのチャリティオークションが、639万円の寄付額に
- DAOでの投票により決まった支援先に、NFT収益を寄付
- 身体が不自由な子どものためのメタバース空間作りを支援するため、NFTアートを販売
- NFTアート作品を返礼品にした、クラウドファンディング
(2022年12月、筆者調べ)
寄せられた寄付の金額は十万円単位から数百万円までといったように、米国の一部の事例と比べるとまだ小さいですが、先行事例がいくつか生まれ実際にお金も集まっていることは、注目に値するでしょう。
国内の団体には税制にハードル、会計処理や匿名性など懸念も
しかし、日本の非営利団体がこの流れにそのまま乗っていけるかというと、税制や法律などの課題が立ちはだかります。
NFTの売買には、ビットコインなど暗号通貨が主に使われます。
仮に「あなたの団体に、ビットコインを100万円分を寄付したい」という、寄付者の方がいらっしゃったとします。
その場合でも、現状では暗号通貨で寄付を受け取るハードルは非常に高いのが現実です。
- 暗号通貨を受け取る「ウォレット」の開設を、非営利団体に認める取引所は現時点では少ない
- 仮に暗号通貨を受け取れても、会計上のルールが現時点では不透明で、保持しづらい(決算時の会計処理や売却益の計上など)
- 株式や不動産などと比べても値動きが大きいため、将来の安定財源としても見込みにくい
そのため、寄付者が暗号通貨を日本円に換金して寄付するのが一般的です。
しかしその場合は、“二重の税負担”が発生してしまう場合があるのです。
詳細は専門的になるので割愛しますが、例えばNFTを販売した売上は、課税対象の所得となります。
その暗号通貨を売却して日本円に換金するとき、値上がり益が発生すると利益が確定した時点で課税対象(特に個人だと税率の高い雑所得扱い)となります。
寄付先が公益法人や認定NPO法人だった場合、個人は寄附金控除が受けられ、また法人も損金算入を認められますが、上記の税負担には及ばないことが多いようです。
つまり、暗号通貨を寄付する側には「持ち出し」が発生してしまい、税制上のメリットが大きい米国と比べて立ち遅れる原因となっているのです。
それだけではなく、暗号通貨の寄付は匿名で寄せられる場合もあります。
「反社会的勢力から、誤って受け取ってしまわないか?」「万が一不適切な会計処理をしてしまった場合に、行政から認定NPO法人格を取り消されないか?」といったリスクの懸念も、複数の団体にヒアリングをするなかであがってきました。
公益法人や認定NPO法人などで規模が大きな団体は、特に受け入れに慎重になるようです。
3-5年スパンでは、規制改革やファンドレイジングでの活用も進むと予想
これまで見てきたように、日本の非営利団体がNFTや暗号通貨のファンドレイジングに乗り出すのは、法律や税制もあって短期的には障害が大きいでしょう。
また2022年に入ってから暗号通貨の相場が下落し、NFTも「バブル」とも呼ばれた価格が値下がりしていくと、お金の流れも最盛期ほどは活発ではなくなっているようです。
一方3-5年など中長期では、まず制度面の課題は解決に向かっていく、と筆者は予想しています。
日本政府は、2022年6月に発表した「骨太方針2022」でWeb3を成長戦略の一部に位置付けました。
暗号資産の税制も、優秀なスタートアップの海外流出を防ぐためなどに、「課税方法を見直す方針を固めた」と報道されています 。
(参考記事)
日経クロストレンド「日本のweb3環境の改善に期待 税制の見直しにも意欲」
COINPOST「日本政府、仮想通貨の法人税のルールを見直す方針」
国内の非営利団体が活用できるソリューションはというと、たとえばファンドレイジング支援事業を行うgooddo株式会社は、「NPO向け暗号資産特化寄付プラットフォーム」を2023年中の開設に向けて準備を進めているそうです。
暗号通貨の寄付が寄せられた場合は、提携した交換所で即時に換金。
非営利団体にとっては寄付を実名かつ日本円で受け取れることになり、税負担や管理リスク、将来価値の不確実性などをクリアにできます。
暗号通貨での寄付を受け入れられれば、海外から支援の可能性も開けます。
「ウクライナ侵攻やトンガ沖噴火では、世界中からビットコインなどで寄付が寄せられました。
暗号通貨なら、場所や言語を問わずすぐに送金できるので、災害などの緊急支援にあたっては大きなポテンシャルがあります。」
(gooddo株式会社 下垣圭介代表取締役)
Web3は、非営利セクターにとって重要なトレンド?今できることは?
米国のファンドレイジング業界では、現在の状況を「クレジットカードによる寄付が普及し始めた、過去と似ている」と指摘する専門家もいました。
(Dunham+Company「BLOCKCHAIN BASED FUNDRAISING IS EXPANDING」)
クレジット寄付は当時もさまざまな障害やリスクが指摘されており、「多くの団体は変化を拒み、潜在的な寄付を失った。」そうですが、今は普及が進みメインストリームへと成長しました。
暗号通貨の寄付は、米国でも管理上の課題は残るものの、非営利団体向けのプラットフォームが開設され受け入れやすくなっています。
5−10年間のスパンで考えると、「Web3」と呼ばれる動きは、単にファンドレイジングの1つの手段、と捉えない方がよいでしょう。
詳しくはまたどこかの機会で説明したいと思いますが、非営利セクター全体にも重要な流れになると筆者は予想しています。
もしWeb3が、ファンドレイジングや非営利セクターに大きなインパクトを与える「ゲームチェンジャー」に将来なりうるなら、今何をすればよいか?
私自身はまず個人として、ビットコインやNFT、あるいはDAOやトークンなどを勉強したり、あるいは参加・購入したりなど“触ってみる”ことから始めています。
団体としても、現状の制度でできる範囲内で小さな実験をしていけるとよいかもしれません。
Web3を取り巻く流れに少しずつでもキャッチアップしながら、ファンドレイジングや非営利セクターと重なる未来を思い描いてみてはいかがでしょうか?