マンスリーサポーターは、「先行投資型」の収支モデル
継続率が高く、安定的な収入の基盤となる「マンスリーサポーター」(=毎月1,000円からなど、継続的に支援する寄付会員)。
一定以上の規模でマンスリーサポーターを増やしている団体は、広告やDM、フェイストゥフェイス(F2F)など、なんらかのコストをかけて、新しいサポーターを獲得しています。
新規サポーターを獲得するために、仮に1人あたりのコスト(CPA)が2万円かかったとすると、その時点では「赤字」。
月額の2,000円や3,000円といった毎月の収入が積み重なり、時間をかけてコストを回収していく「先行投資型」の収支モデルです。
先行投資をするうえで重要なポイントは、「いつ?」「どれだけの?」収入を後で回収できるか?。
その投資回収モデルを組むうえで鍵を握る指標が、LTVです。
LTV(生涯顧客価値)は、ライフタイムバリューの略語。
お客様一人ひとりが生涯にわたって、どれだけ自社の商品・サービスを買ってくださるか?
そのトータルの売上を合計した金額が、LTVです。
(「LTV(ライフタイムバリュー)を計算する方法と、算出の注意点」より)
ビジネス、特に同じように先行投資が必要となる、定期通販やサブスクリプションといった月額課金型のビジネスモデルで重視されてきました。
「LTV10万円」なら、1人あたり2万円の獲得コストがかかっても十分にペイ
マンスリーサポーターのLTVは、どの程度の金額になることが多いのでしょうか?
もちろん団体によって異なりますし、測定方法や基準(何年間でみるか?)によって数字はまちまちです。
しかし、おしなべて5万円から15万円程度の間に分布していることが多いようです。
もしマンスリーサポーターを1人獲得したら、5年間で平均して10万円の寄付をしていただける、と分かったとしましょう。
そうしたら、たとえ1人あたり2万円や3万円といった獲得コストをかけても、長期的には十分にペイしますね
「一定のコストをかければ、マンスリーサポーターを獲得できる」という仕組みができている団体なら、LTVさえ分かれば先行投資のアクセルを踏めるケースもあるはずです。
(もちろん、キャッシュフローなど解決すべき問題も残りますが。)
なぜデータベースから、必要な数値を取り出せないのか?
ところが、LTVを測定する時に多くの団体がぶつかるのが、「データベースから適切な数字を取り出せない」という問題でした。
多くのNPOが寄付者の管理に用いているのは、セールスフォース(Salesforce)。
セールスフォースは元々BtoBの法人向けセールス営業(SFA)として主に使われてきたシステムです。
そんな事情もあってか、BtoCのマーケティングに不可欠な、1人1人の顧客の売上履歴を追うのが、難しい構造になってしまっています。
(正確に言うと、セールスフォース自体というよりは、非営利団体向けや寄付者管理用のパッケージや、カスタマイズしている事例の多くが、残念ながら先行投資型のビジネスモデルを反映したものになっておらず、LTVを簡単には測定できないのが現状です。)
したがって、一部の大手NGOなど「海外のドナーマネジメントシステムを活用している」「自前でシステムを構築している」といった団体を除き、一般のNPOにとってはLTVは「概念としては理解できても、マーケティング実務に反映しにくい」ものになっていました。
「1年後には90%が寄付を継続」継続率からLTVを概算
そんな現実を踏まえたうえで求められるのが、簡易的にでもLTVを概算すること。
そこで鍵となるのが、マンスリーサポーター1人1人の継続率をはかる方法です。
5年前に入会した1,000人は、継続してくれている?
たとえば5年前の年度、1年間にマンスリーサポーターに入会した方が1,000人いたとします。
そのうち100名は、1年以内に退会しました。
このとき、1年後に支援を続けてくださっているサポーターは900人。
したがって、1年後の継続率は90%です。
今度は2年後まで、100人が退会して、800人が残っていました。
2年後の継続率は80%です。
このように入会からの年数によって継続しているサポーターの人数を算出していくと、n年後ごとの継続率を算出できます。
仮に毎月の平均単価が2,000円とすると、年平均単価は24,000円。
上のグラフの例から5年後までの継続率をそれぞれとって、(n-1とn)/2と平均をとったうえで年平均単価と掛け合わせると、以下の計算式を導き出せます。
{(100%+90%)/2+(90%+80%)/2+(80%+72%)/2+(72%+63%)/2+(63%+59%)/2}×24,000円=92,280円
すなわち、5年間でのLTVが92,280円になると、継続率の過去実績値をもとにシミュレーションできるのです。
入会日と退会日さえ分かれば、Excelで出せる
データベースをあまり整備できていない団体でも、サポーター会員ごとの入会日と退会日は項目として設けているはずです。
退会したサポーターについて、退会日ー入会日=継続年数を出して、「3年後までは継続していたけど、4年後には離脱していた」といったデータを出せばよいのです。
このデータにもとづいて継続率を出していけばよいなら、Excel上でvlookupなどの簡単な関数を用いれば、簡単にできるはずです。
この継続率に平均単価をかけた数字をn年後ごとに足し合わせていけば、n年後のLTVが概算できます。
上のグラフの例では、月平均単価が2、000円。
年平均単価は、2,000円×12ヶ月=24,000円です。
これらを総合して、以下の計算式によって5年後までのLTVを概算できるのです。
データベースを改修せずに、素早くシミュレーション
もちろん、サポーターの方のなかには、途中で金額を変更したり、お休みしたり、なかには「決済が数ヶ月間かかっていなかった」という方もいます。
「夏募金」や「冬募金」などキャンペーンの呼びかけに、その都度寄付してくださった方もいるでしょう。
ただ、ここで強調したいのは、多少の誤差があることを踏まえたうえでも、LTVは概算できるということ。
データベースを改修するには、少なくないコストがかかりがちです。
コストやスピードとのトレードオフを頭に入れたうえで、簡易的にでも素早く投資対効果のシミュレーションをしたい場合には、今回解説した計算式をぜひ参考にしてみてください。
「tableau」などBIツールの活用で、より正確なデータを
なお最後に、今回ご説明した概算値を超えてLTVを正確に計算するためには、どうすればよいでしょうか?
「基幹となるデータベースが、セールスフォース」という制約条件を踏まえたうえで、解決策となるのが「BIツール」の活用。
なかでもtableau(タブロー)は、世界的に標準となりうるツールであるうえに、非営利団体向けに特別に安価に使用できるプログラムが、TechSoupを通じて提供されています。
たとえば今回ご説明した継続率も、LTVを高めるために追っていくべき重要な中間指標ですが、セールスフォースからではレポートなどを駆使しても、日常的にモニタリングしていくに際しては、算出がなかなか困難という実情もあります。
タブローなどBIツールを使えば、日常的に数値を追っていくようにできるはずです。
マンスリーサポーターになっていただいた方に、継続的に気持ちよくご支援をいただく。
問題解決に向けて資金調達額をスケールさせるため、投資対効果をシミュレーションする。
それらを実現するための基礎となるデータを分析するうえで、不可欠な指標とデータベースからの取り出し方を解説しました、
ぜひあなたの団体にも当てはめて、手を動かして数字を出してみてください。