「寄付市場」って日本ではどれくらい?海外との比較や“業界”の成長性を調べました

2022
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「寄付を募る仕事をしている」と言うと、ビジネスサイドの方から質問されるのが「寄付って、市場規模にすると、どれくらいなんですか?」 「日本の寄付市場のデータはどれくらいか? 」「海外と比べた時に大きい?小さい? 」「マーケットとして捉えた時、2020年代に成長するのか? 」ファンドレイジング業界で働く方やこれから関わろうつお思っている方なら気になる疑問に、「寄付白書」など統計データも調べながら答えますね。

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目次

寄付の“市場規模”、日本では1兆円以上と推定

まずは日本の寄付市場ですが、現時点で最新である「寄付白書2021」(日本ファンドレイジング協会)の統計を参照しましょう。

2020年の実績では、個人からの寄付は1兆2,126億円と推定されるそうです。

ただしこの金額には、返礼品の贈呈も一般的な「ふるさと納税」が6,725億円含まれています。
ふるさと納税を除いた5,401億円が、実質的な個人寄付と考えてよいでしょう。

続いて法人からの寄付はというと、2019年度になりますが6,729億円。

個人寄付と法人寄付、合計すると1兆2,130億円です。
(その他にも「個人会費」が2,989億円や、「財団の助成金」が1,195億円など、寄付に近しい支援性のお金の流れもありますが、「寄付」に限って述べました。)

約1兆2,130億円と言われても、ピンとこないかもしれません。 近しい規模の業界の数字を挙げると・・

身近に利用しているモノ・サービスが、意外に並びますね。

海外と比べると?金額はアメリカの約34分の1、GDP比でもイギリス2分の1程度

では、日本の寄付市場は世界的にみて大きいのか?小さいのか?
個人寄付に限って、寄付白書に載っていたデータで比べてみると・・

  • アメリカ:34兆5,948億円(GDP比1.55%)
  • イギリス:1兆4,878億円(GDP比0.47%)
  • 日本:1兆2,126億円(GDP比0.23%)

アメリカと比べると、34分の1程度と圧倒的な差があると分かりますね。
イギリスと比較しても半分程度ですので、日本の寄付市場は、経済規模と比べても著しく小さいのが分かります。

「寄付白書2021」より抜粋  

2011年の東日本大震災もきっかけに、増加トレンド

しかし、「日本の寄付は停滞傾向が続いているのか?」 と調べると、そんなことはありません。

直近の個人寄付の推移を見てみると、2010年には4,874億円。
もちろん、リーマンショックによる経済の冷え込みもあったのでしょう。ただ、現在よりも金額が随分と小さいのが分かります。

それが東日本大震災のあった2011年には10,182億円と2倍以上に増加
東北地方をはじめ、被災地への募金に大きなお金が流れたことが原因です。

2012年には減りますが、それ以降も2016年にかけて6,000~7,000億円台(ふるさと納税含む)へと少しずつ増えていますね。
「アベノミクス」による景気の好調に伴なってか、2010年代、なだらかに成長してきました。

2020年代、寄付市場は成長するのか?消費トレンドから考えると

寄付白書の統計データを見て分かったことをまとめると・・

  • 日本の寄付市場は、アバウトに「1.2兆円程度」(個人寄付だけではふるさと納税を除いても約5,400億円)とそれなりの金額
  • しかし、アメリカやイギリスなど海外の先進国と比べると、経済規模の割には著しく小さい
  • 2010年代、東日本大震災や景気の回復もあり成長してきた(10年間で2倍以上に)

ここまでが過去の統計データにもとづいた話ですが、ここからは未来の予測です。

なぜ寄付市場が、成長しているのか?
今後も成長は続くか?そうではないのか?

東日本大震災をきっかけに、寄付の習慣が根付くようになった
「若者世代など、社会貢献意識が高まっている」
「そうは言っても一過性の動きで、日本には寄付文化は定着しない・・
などさまざまな議論がされていますが、私自身は消費にまつわる長期的なトレンドが、寄付の伸びの背景にあると考えています。

クルマや持ち家、ラグジャリーブランドなど、今までステータスとされてきた商品に、若い世代ほどお金を使わなくなってきている。
そんな“モノ離れ”のなかでも、「共感できるブランドを買う」、あるいは「応援したい人のお店やサービスを使う」など“ヒト消費”と呼ばれる流れも出てきました。

特に先進国で生活に余裕のある人々の間では、精神的な満足にお金を使うようになっている、とも言われます。

そんな流れで注目されるのが、「利他的な行動によって、幸福度が上がる」という事実。
「自分のために何かを買う」より「誰かのためにプレゼントをあげる」方が、(それが見知らぬ人であっても)人間が幸せになりやすいことは、いくつかの心理学の実験によって知られています。

「2020年まで、ファンドレイジングに注力しよう」と決めた、5つの理由より)

寄付は、利他的なお金の使い方の最たるもの
そして、形がない消費の究極的な姿と言えるでしょう。

「想いに共感した団体や活動に、自分もなんらかの形で参加したい」
「お金を使うという行為を通じて、私らしさを表現したい」
「慌ただしい日々のなかでも、世の中の役に立てている、という実感を持ちたい

そういった人々のニーズを「寄付」というプロダクトが捉えてきたからこそ、寄付市場が伸びてきたし、これからも十分に成長の余地があるのでは?と考えています。

キャリアを考えるなら、「成長市場」に身を置くのが大事

私は現在、「ファンドレイジング」という簡単に言うと、寄付を募る仕事をメインにしています。

元々は広告代理店などマーケティングの仕事をしてから、東日本大震災を機にNPOに転職。
被災地などで子どもたちの教育支援をする団体で、ファンドレイジングの責任者を務めた後、2015年に独立。
今はNPO・NGOを主なクライアントに、コンサルティングやデジタルマーケティング支援をしています。

寄付なんて仕事にして、食べていけるのか?
「お金が集まったのも、災害支援など一過性の現象では?」

そう考えて寄付の世界からは離れようとしたこともありましたが、この分野で極めて行こうと決めました。 詳しくは、こちらの記事をご覧いただければと思いますが、「寄付市場の成長性」に魅力を感じたのも1つの理由です。

もしあなたが、非営利セクターでのキャリアを考えられて寄付市場を調べられた方なら・・
「どの市場に身を置くか?」は、キャリア選びのうえでとても大事ですね

特に私がいるマーケティングの分野では、個人的に大事と思うのが「成長期」にある業界に身を置いていること。

市場自体が縮小していっている産業では、売上が伸びないので、「競合との値引き合戦に・・」「予算がないのでやりたい施策もできない」「給料も上がらない」なども。
逆に成長市場では、組織の売上が伸びやすいのはもちろん、個人のキャリアにおいても、

  • さまざまな機会が訪れるので、経験の幅が広がりやすい
  • 人材の売り手市場になるので、転職もしやすい
  • 売上が上がるから、給料もアップしやすい

といったように、さまざまなメリットがあります。

今は決してメジャーではない業界・職業であっても、市場全体が成長していけばその分「上りエスカレーター」に乗ってキャリアアップしやすいはずです。
キャリアを考えるうえでも、「寄付市場」の可能性を考える材料になれば、と統計データまとめとともに綴らせていただきました。

この記事を書いた人
山内 悠太
ファンドレイジング・コンサルタント

1982年生れ。東京大学教養学部卒。大手メーカー(三洋電機)・広告代理店(ファインドスター)・教育NPO(認定NPO法人カタリバ)を経て、2014年に独立。
現在は「ファンドレイジング」と呼ばれる非営利団体の寄付募集を、コンサルタントとして支援しています。

マーケティング戦略の策定から「マンスリーサポーター」はじめ個人寄付収入の拡大、オペレーションのデジタル化まで、NPO・NGOや大学など10団体以上をサポートしてきました。

元々は「ダイレクトマーケティング」と呼ばれる分野で、広告やCRMの仕事を手がけてきました。
今もD2C(EC通販)やサブスクリプションなど業界にも携わり、その知見を非営利セクターに応用しています。

「非営利セクターで働く人、働きたい人のキャリアや学習を応援したい」という思いから、2022年にFunDio(ファンディオ)を立ち上げ。
「社会貢献の仕事をしたい」「NPOで働きたい」といった方には、キャリア相談にも乗らせてもらっています。

生まれ育った東京を8年前に離れ、湘南の自宅で仕事をしています。
7歳の娘の父。ラグビーやランニングなど体を動かすこと、本を読むことが好きです。

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