寄付の“市場規模”、日本では1兆円以上と推定
まずは日本の寄付市場ですが、現時点で最新である「寄付白書2021」(日本ファンドレイジング協会)の統計を参照しましょう。
2020年の実績では、個人からの寄付は1兆2,126億円と推定されるそうです。
ただしこの金額には、返礼品の贈呈も一般的な「ふるさと納税」が6,725億円含まれています。
ふるさと納税を除いた5,401億円が、実質的な個人寄付と考えてよいでしょう。
続いて法人からの寄付はというと、2019年度になりますが6,729億円。
個人寄付と法人寄付、合計すると1兆2,130億円です。
(その他にも「個人会費」が2,989億円や、「財団の助成金」が1,195億円など、寄付に近しい支援性のお金の流れもありますが、「寄付」に限って述べました。)
約1兆2,130億円と言われても、ピンとこないかもしれません。 近しい規模の業界の数字を挙げると・・
- スポーツシューズ・アパレル:約1.1兆円
- 芸能・スポーツマネジメント市場:約1.2兆円
- 健康食品・サプリメント市場:約1.3兆円
身近に利用しているモノ・サービスが、意外に並びますね。
海外と比べると?金額はアメリカの約34分の1、GDP比でもイギリスの2分の1程度
では、日本の寄付市場は世界的にみて大きいのか?小さいのか?
個人寄付に限って、寄付白書に載っていたデータで比べてみると・・
- アメリカ:34兆5,948億円(GDP比1.55%)
- イギリス:1兆4,878億円(GDP比0.47%)
- 日本:1兆2,126億円(GDP比0.23%)
アメリカと比べると、34分の1程度と圧倒的な差があると分かりますね。
イギリスと比較しても半分程度ですので、日本の寄付市場は、経済規模と比べても著しく小さいのが分かります。
2011年の東日本大震災もきっかけに、増加トレンド
しかし、「日本の寄付は停滞傾向が続いているのか?」 と調べると、そんなことはありません。
直近の個人寄付の推移を見てみると、2010年には4,874億円。
もちろん、リーマンショックによる経済の冷え込みもあったのでしょう。ただ、現在よりも金額が随分と小さいのが分かります。
それが東日本大震災のあった2011年には10,182億円と2倍以上に増加。
東北地方をはじめ、被災地への募金に大きなお金が流れたことが原因です。
2012年には減りますが、それ以降も2016年にかけて6,000~7,000億円台(ふるさと納税含む)へと少しずつ増えていますね。
「アベノミクス」による景気の好調に伴なってか、2010年代、なだらかに成長してきました。
2020年代、寄付市場は成長するのか?消費トレンドから考えると
寄付白書の統計データを見て分かったことをまとめると・・
- 日本の寄付市場は、アバウトに「1.2兆円程度」(個人寄付だけではふるさと納税を除いても約5,400億円)とそれなりの金額
- しかし、アメリカやイギリスなど海外の先進国と比べると、経済規模の割には著しく小さい
- 2010年代、東日本大震災や景気の回復もあり成長してきた(10年間で2倍以上に)
ここまでが過去の統計データにもとづいた話ですが、ここからは未来の予測です。
なぜ寄付市場が、成長しているのか?
今後も成長は続くか?そうではないのか?
「東日本大震災をきっかけに、寄付の習慣が根付くようになった」
「若者世代など、社会貢献意識が高まっている」
「そうは言っても一過性の動きで、日本には寄付文化は定着しない・・」
などさまざまな議論がされていますが、私自身は消費にまつわる長期的なトレンドが、寄付の伸びの背景にあると考えています。
クルマや持ち家、ラグジャリーブランドなど、今までステータスとされてきた商品に、若い世代ほどお金を使わなくなってきている。
そんな“モノ離れ”のなかでも、「共感できるブランドを買う」、あるいは「応援したい人のお店やサービスを使う」など“ヒト消費”と呼ばれる流れも出てきました。
特に先進国で生活に余裕のある人々の間では、精神的な満足にお金を使うようになっている、とも言われます。
そんな流れで注目されるのが、「利他的な行動によって、幸福度が上がる」という事実。
「自分のために何かを買う」より「誰かのためにプレゼントをあげる」方が、(それが見知らぬ人であっても)人間が幸せになりやすいことは、いくつかの心理学の実験によって知られています。
(「2020年まで、ファンドレイジングに注力しよう」と決めた、5つの理由より)
寄付は、利他的なお金の使い方の最たるもの。
そして、形がない消費の究極的な姿と言えるでしょう。
「想いに共感した団体や活動に、自分もなんらかの形で参加したい」
「お金を使うという行為を通じて、私らしさを表現したい」
「慌ただしい日々のなかでも、世の中の役に立てている、という実感を持ちたい」
そういった人々のニーズを「寄付」というプロダクトが捉えてきたからこそ、寄付市場が伸びてきたし、これからも十分に成長の余地があるのでは?と考えています。
キャリアを考えるなら、「成長市場」に身を置くのが大事
私は現在、「ファンドレイジング」という簡単に言うと、寄付を募る仕事をメインにしています。
元々は広告代理店などマーケティングの仕事をしてから、東日本大震災を機にNPOに転職。
被災地などで子どもたちの教育支援をする団体で、ファンドレイジングの責任者を務めた後、2015年に独立。
今はNPO・NGOを主なクライアントに、コンサルティングやデジタルマーケティング支援をしています。
「寄付なんて仕事にして、食べていけるのか?」
「お金が集まったのも、災害支援など一過性の現象では?」
そう考えて寄付の世界からは離れようとしたこともありましたが、この分野で極めて行こうと決めました。 詳しくは、こちらの記事をご覧いただければと思いますが、「寄付市場の成長性」に魅力を感じたのも1つの理由です。
もしあなたが、非営利セクターでのキャリアを考えられて寄付市場を調べられた方なら・・
「どの市場に身を置くか?」は、キャリア選びのうえでとても大事ですね
特に私がいるマーケティングの分野では、個人的に大事と思うのが「成長期」にある業界に身を置いていること。
市場自体が縮小していっている産業では、売上が伸びないので、「競合との値引き合戦に・・」「予算がないのでやりたい施策もできない」「給料も上がらない」なども。
逆に成長市場では、組織の売上が伸びやすいのはもちろん、個人のキャリアにおいても、
- さまざまな機会が訪れるので、経験の幅が広がりやすい
- 人材の売り手市場になるので、転職もしやすい
- 売上が上がるから、給料もアップしやすい
といったように、さまざまなメリットがあります。
今は決してメジャーではない業界・職業であっても、市場全体が成長していけばその分「上りエスカレーター」に乗ってキャリアアップしやすいはずです。
キャリアを考えるうえでも、「寄付市場」の可能性を考える材料になれば、と統計データまとめとともに綴らせていただきました。