ランディングページ(LP)の改善、団体事例から軌跡をたどると
寄付を募る広告を見たユーザーが、団体の活動や支援の方法について詳しく見るために用意するのが、ランディングページ(Landing Page。以後LP)です。
“ファンドレイジングにおけるLPとは、寄付を募るため専用に作られた、1枚もののページのこと。団体が取り組んでいる社会課題や事業内容、支援の依頼や寄付の使途まで記載して、「この1ページを読めば、今まで団体を知らなかった人でも、寄付という行動を起こしてもらえる」という内容になるよう設計します。”
引用元:「WEBから寄付の申し込みが自動的に起こる、ランディングページ(LP)の作り方」
デジタルマーケティングに本格的に取り組んでいる団体は、どのようなLPを作っているのでしょうか?認定NPO法人カタリバのマンスリーサポーター「20,000人を突破」の実績は前々回の記事でも紹介しましたが、同団体ではこのLPのテスト・改善に継続的に取り組んできたことが、成長の原動力となりました。
ページの実例をご覧ください。左側がプロモーションを本格的に始めた当時のLP、右側がその約2年後のLPです。基本的なデザインは変わっていませんが、各パーツのコンテンツや写真、ボタンなどがそれぞれ異なるのがわかるでしょうか?
LPの2年間での変化推移
たとえば「ファーストビュー(FV)」と呼ばれる、上記画像の左側赤枠のトップ箇所に注目してください。メインで表示される写真を別の生徒さんに変更して、右下に配置されたボタンの文言も変わっています。(生徒さんの写真は、プライバシー保護などのため表示を控えております。ご了承ください。)
- FVの直下(右側の下の方の赤枠)には、メディア掲載や受賞歴など団体の信頼性を表すコンテンツを追加
- それ以下の社会課題や活動内容などを伝えるコンテンツも、差し替え
といった変更がされています。これらの変更ですが、会議をしてマネージャー・経営幹部が決定したり、広告代理店など専門家の提案がそのまま通ったりした訳ではありません。
1つ1つテストをして前のパターンと比べて結果が良かったものだけを残す。すなわち以前のパターンと比べて「コンバージョン率(Conversion Rate。以後CVR)が高まる」と定量的に実証された案だけを採用してきたのです。
したがって一気にリニューアルをしたのではなく、何度にも分けてマイナーチェンジを繰り返してきました。
“ファーストビュー”のボタンを変更して、CVR1.7倍にアップ
この「テストをして改善する」とは、どのようなプロセスをたどるのか、もう少し具体的に見ていきましょう。
先ほどのLPのファーストビュー右下にあるボタン(以下の画像のAパターンの赤枠)では、「あなたにできること」と文言が記載されています。このボタンを押すと、マンスリーサポーターの金額や支払い方法など記載されたLP下部に移動する仕様になっていました。
FVボタンのA/Bテストの事例
しかし、アクセス解析のデータを見ると判明したのは、LPを訪問しても申込フォームまで遷移するユーザーの割合が低かったこと。
「ページを見てくださった方に、理解・共感だけではなく申込を検討してほしい。」
「すなわちフォームへの遷移率を高めて、CVRを改善したい。」
そういった議論をしていくなかで、以下の課題が仮説として浮かびました。
- 「あなたのご寄付でできること」という文言が、ピンときてもらいにくいのでは?
- そもそもクリック(タップ)できるボタンと、分かりにくいデザインでは?
- ページ下部に移動して、そこから申込フォームに遷移する流れが混乱しやすいのでは?
そこで、Bパターンでは「月1,000円〜寄付する」と具体的なアクションを表した文言に変更して、「少額からでも寄付できること」と「このボタンをクリックしたら何をできるのか?」を分かりやすく提示。ボタンのデザインも、矢印を目立たせるなどクリック(タップ)できるとひと目で分かりやすい形状に、変更しました。
ページを訪れたユーザーには、この2パターンのどちらかがランダムに表示されるように設定。それぞれのアクセスデータを比較したところ、CVRが0.53%(Aパターン)から0.92%(Bパターン)へと約1.7倍にアップしていました。
そこで、このテスト以降はAパターンのボタンをBパターンに切り替え、常に表示するようにしたのです。
A/Bテストによる仮説検証は、民間企業や学術研究でも重視されてきた
ここまで「A/Bテスト」の事例をお伝えしましたが、NPO・NGO業界の方にとって、このテストという概念は馴染みが薄いかもしれません。
A/Bテストとは、複数のパターンを準備して、アクセスするユーザーがAパターンとBパターン、ランダム(無作為)に表示されるように設定すること。2つ以上の仮説をマーケティング施策に落とし込み、同時に実行してその結果を定量的に比較します。(参考:「A/Bテストとは?初心者向けの方法と、広告やLPの改善事例」
例えば、2万人の方がページを訪れたと仮定します。1万人にAパターン、残りの1万人にはBパターンのページが開くように設定を施します。
A・B両パターンの表示振り分けとCVRの変化(イメージ)
その結果、Aは100人、Bは150人が寄付をしてくださったとしましょう。つまり、Bパターンのほうが寄付につながりやすいページと判明しました。
このA/Bテスト、民間企業のデジタルマーケティングではよく使われてきた方法論で、非営利団体でも活用される事例が増えてきています。(余談ですが、自然・社会科学の研究でよく行われる「ランダム化比較試験(RCT)」とも同じ原理です。)たとえばGoogle社が提供する「オプティマイズ」といった無料ツールを使えば、コーディングなど専門知識がない方でも、簡単なテストは設定できます。
このように改善案をテストしたうえで、その効果を1つずつ確かめていき、結果の良かったパターンだけを残していきます。もちろん失敗もありますが、悪かったパターンは採用しなければよいので、試行錯誤を地道に積み上げていけばCVRはだんだんと高まっていくのです。
コンバーション率の高い”型”に、まずは当てはめて制作
今回は、「A/Bテスト」によってCVRを改善していく方法論や事例をお伝えしてきました。
最後に補足すると、このA/Bテストが有効に機能するための条件は、マンスリーサポーターの新規獲得が既に一定以上のボリュームで回っていること。具体的な目安の1つとしては、月100件以上のお申し込みがあることです。なぜならCV数の母数が少ないと、テストで統計的に有意な検証結果を得ることが難しいからです。
またテストの企画や実装、検証にも、専門的な知識やスタッフの工数が必要です。お申込みが月数十件などの規模でA/Bテストを繰り返しても、成果には貢献しにくいことが、私もさまざまなご支援をするなかで経験的に分かってきました。
特に「広告を配信してみたが、費用対効果が想定の2倍以上も悪かった」「そもそも寄付募集専用のLPがない」といった場合は、テストではなく”成功しやすい基本の型”に沿って、LPを制作する(あるいはリニューアルする)ことをおすすめしています。
LPのCVRを高めるための、ベーシックな構成と構成要素(前半の一部)
コンバージョン率の高いLPの型については、以下の記事でも解説していますので、ぜひご覧になってください。
(参考)WEBから寄付の申し込みが自動的に起こる、ランディングページ(LP)の作り方
マンスリーサポーターの獲得件数が月100件以上など一定の規模になると、広告はじめ集客側の改善だけでは費用対効果を改善しにくいなど、成果が頭打ちになる時期がやってきます。規模のスケールと費用対効果の担保を両立させながら、マンスリーサポーター収入を拡大させていきたい団体は、ぜひこのA/Bテストをどこかの段階で取り入れてみてください。「走りながら、考える」すなわちPDCAを回していくサイクルを、地道に繰り返していけるか?によって、デジタルマーケティングの成否は大きく分かれるはずです。