スタッフの知人友人や受益者・ボランティアなど関係者の周辺だけではなく、団体を知らなかった不特定多数の方々にもご支援を広めたい。
このように“身内”だけではなく“マスマーケット”に乗り出していく場合、1対1でお会いして説明したり、活動を体験してもらったりしなくても、WEBサイトやSNS・広告などを通じて共感した方が、寄付の申し込みまで完結してもらう仕組みづくり、すなわち「マーケティング」が不可欠です。
マンスリーサポーターはじめ個人寄付者をマーケティングによって募り、「年間1億円以上」など一定の規模に育てていくことを目指すなら、押さえておきたいのが団体や活動から見た“向き不向き”。
国際協力や国内支援、あるいは子ども支援や中間支援など、団体の活動する分野によって、寄付の集まりやすさは異なります。
取り組む社会課題や受益者の属性、寄付の使途と、3つのチェックポイントをまとめました。
国際協力と国内支援、ファンドレイジングを伸ばしやすいのはどちら?
国際協力をメインに活動をするNGOから、“マンスリーサポーター”や“デジタル広告”についてご相談をいただく機会が、特にコロナ禍が始まってから増えました。
ですが、今からスタートする場合は「投資回収までの期間が長くなりやすい」「費用対効果のKPIが厳しくなってきている」ことなどお話ししたうえで、慎重に検討された方が良いとアドバイスさせていただく場合も少なくありません。
なぜなら、2022年初め時点では国際協力の寄付マーケットは、市場の伸びと比べて競争が激しいからです。
たしかに、途上国支援をはじめとした国際協力は、寄付のマーケットとして確立されている分野です。
年間数十億円の寄付を集めているNGOもいくつかありますし、なかにはユニセフさんのように日本だけで220億円(2020年度)もほぼ寄付だけで調達しているような大規模な団体もあります。
一方、「市場の成長は?」というと緩やかな拡大傾向にある一方で、少しずつ鈍化している印象です。
NGOの財務情報を紐解くと、市場全体は緩やかな拡大傾向にある。その実態として、収益規模40億円以上の大規模団体の成長が市場全体の成長を牽引しており、収益規模2億円以下の団体の成長は団体差がありつつも停滞気味であるため、二極化が起きていると言える。
(「日本の社会課題解決における現状と将来像~SDGs時代におけるグローバル共生のあり方~」アビームコンサルティング社より)
国際的なNGOの日本支部をはじめとしたファンドレイジングに秀でたプレーヤーが、資金調達を伸ばしているものの、国内発など中小規模の団体は伸び悩んでいる団体も少なくない。
というなかで、事業規模によって「二極化」が進んでいることが、以下のグラフからも分かります。
2020年代に入ってからはコロナ禍にともない、日本国内の貧困や医療などにメディア報道などでも注目が集まり、国内での支援活動への寄付が急激に増えました。
日本赤十字社のアンケート調査でも、コロナ対策支援において「海外への寄付による支援意向は国内と比較するとはるかに低く、海外より国内の支援が優先される」という結果が出ています。
寄付市場は全体として成長していますし、今後は「揺り戻し」も起こると予測していますが、国際協力への支援は“相対的には”注目が集まりづらくなっている、と捉えてよいでしょう。
このように“需要”が変化するなか、“供給”はどうでしょう?
国際協力の分野では、ファンドレイジングに伝統的に力を入れてきた団体が、国内支援と比べて多く存在しています。
デジタルマーケティングに力を入れる団体も、この1、2年間で増えた印象です。
冒頭の「慎重に検討された方が良い」は、このような需給関係を踏まえての考えでした。
個人向けファンドレイジングに向いているか?のチェックポイント
続いて前章とは別の視点から、「寄付が集まりやすい」か否か?を見ていきましょう。
複数の事業を展開されている団体なら、「あの活動は、季節募金のキャンペーンをしても反応が鈍かった」「このプロジェクトは、クラウドファンディングですぐに目標額に達した」など、活動内容や使途によって寄付の集まりやすさの違いを実感されているはずです。
個人を対象にマスマーケット(不特定多数)に向けてファンドレイジングをする場合、「右脳」で直感的に共感してもらえるか否か?が成否を握ります。
それらを検討するうえでチェックしたい3つのポイントをまとめました。
ポイント1:社会課題は認知されているか?
まず大事なのが、その社会課題(イシュー)自体が、一般の方々に知られていることです。
たとえば、日本国内の子ども支援については、2010年代前半までは、「災害」や「遺児孤児」といった特定分野を除いては難しかった、という感覚を抱いています。
なぜなら、国内の子どもについて「支援が必要な状況にある」と認識している人々が、今よりは多くなかったからです。
ところが、2010年代半ばから「子どもの貧困」や「虐待」、「子ども食堂」といった国内の子どもにまつわる社会課題がマスメディアなどで報道される機会が増えました。
コロナ禍では、「若者の苦境」といった国内の問題の露出も増えました。
それらが認知されるにともない、広告やSNS、メールやDMなどでのユーザーから反応も、2010年代後半に高まっていきました。
個人向けファンドレイジングに本格的に乗り出す団体も、増えていった印象です。
もちろん、一般の方々に知られざる社会課題に理解を深めてもらう役割を、ファンドレイジングが担っている側面もあるはずです。
このような「啓発」も活動も、社会的にとって重要な意義と捉えて注力している団体もあります。
そのような意義を実現するうえでも、「社会課題の認知度」がファンドレイジングの成果に影響を与える、という傾向を認識することは大事と考えています。
ポイント2:受益者の属性は?
続いては支援対象による違い、具体的には受益者を「助けたい」と感じてもらいやすいか否か?です。
たとえば国際協力の活動で、食料や飲料水、あるいは医療などの支援においては、その地域の住民全体が支援対象となることが多いでしょう。
しかし、寄付を募るWEBサイトやDMなどにおいては、子どもの写真がメインで登場するケースが多いはずです。
なぜなら、あくまで「良い悪い」とは別の話と前置きしつつ、現実においては「成人男性を前面に出すよりは、ご支援をいただきやすい」と経験的に知られているからです。
逆に言えば、メインに打ち出す支援対象が、子どもよりは大人、女性よりは男性の方が、寄付は集まりにくいはずです。
同じ子ども支援の活動でも、年代によって乳幼児や小学生、中高生などに分かれますし、国や地域によっても区分されます。
もちろん大人でも、「難民」や「被災者」といった偶発的な理由で苦境に立たされた方には寄付は集まりやすいですし、例外はあります。
このように「かわいそう度合い」を強調した寄付募集については、ファンドレイジングに携わる方々においてもさまざまな意見があると理解しています。
私も個人的には、「寄付は、恵まれない人にするもの」といった偏見は、正していきたい想いも抱いています。
また、ネガティブな打ち出し方や受益者にスポットライトを当てた表現に頼らずに、寄付収入を伸ばしている団体もあります。
一方、メインで打ち出す受益者の属性によって、寄付の集まりやすさは変わってくることは、頭に入れておかれると良いでしょう。
ポイント3:活動内容や資金の使途は、寄付とリンクするか?
ポイント1で「国内の子ども支援の寄付が集まりやすくなってきた」と説明しましたが、分野によって大きな違いもあります。
子どもにまつわる社会課題はたくさんありますが、たとえば「不登校」や「いじめ対策」あるいは「キャリア支援」といった分野は、大規模に寄付を集めている団体は見当たりません。
理由ははっきりとは分かりませんが、一般の方々にとっては活動内容が寄付とリンクしないこと、すなわち「お金がかかる活動であること」「その資金を民間で集める必要があること」とイメージしづらいからと捉えています。
カタチのない活動ですと、寄付が何に使われるかも想像しにくいはずです。
あるいは、「行政がする仕事」「家庭の自己責任」だから、「私が支援する必要はない」と認識してしまう方もいるでしょう。
逆に、たとえば「子ども食堂を運営する」というと、食材の買い出しやスペースの家賃などにお金がかかることは、なんとなくでも理解できる方も多いでしょう。
活動をしている情景も浮かびやすいですし、民間の有志が支援に立ち上がることにも納得感があります。
「難病の子どもの手術代」や「途上国にワクチンを届ける」「児童養護施設出身の生徒の大学進学」あるいは「人権回復の裁判費用」、「学校の校舎の立て直し」といったケースも同様です。
非営利セクターにいらっしゃる方なら、「活動が社会的なインパクトを生み出せるか?」と「寄付の使途をわかりやすく説明できるか?」は、必ずしも一致しないと理解されているはずです。
スタッフの雇用はじめ人件費や、ITシステムの構築やファンドレイジング投資も含めて組織基盤整備が、寄付を真に有効に活用するためには重要と、私は個人的には考えています。
そのうえで、「カタチがあるモノ」「活動内容がイメージできる」「お金の使い道が直感的にピンときやすい」には寄付も集まりやすい、という原則は押さえておかれるとよいでしょう。
市場の需給を見ながら、団体に合う資金調達手段を選ぶ
これまでのご説明からお伝えしたかったことは、「どこのマーケットにいるか?」、すなわち「何の社会課題に取り組んでいるか?」や「どのような活動をしているか?」によって、寄付の集まりやすさは大きく変わってくる、ということです。
寄付も「マーケット」と捉えると、そのなかでのパフォーマンスを決める大きな要因は、需要と供給です。
1つ目の章では、需要(=寄付ニーズ)と供給(=ファンドレイジングに取り組む団体)の観点から、国際協力と国内支援との競争環境の違いを解説しました。
2つ目の章では、「そもそも需要が形成されやすい、社会課題や活動内容か?」という観点から、3つのチェックポイントをご説明しました。
もちろんどの分野で活動している団体も、尊い大事な支援をされていると私は理解しています。
しかし、いくら素晴らしい活動をしていても、一般の人々にわかりやすく“ピンときてもらえる”分野でないと、特に個人からの寄付は集まりにくいですし、分野ごとに競争の激しさによってパフォーマンスが変わることも事実です。
ビジネスの世界では、「どう戦うか?」より、「どこで戦うか?」が大事、とも言われます。
戦術より戦略、すなわちマーケット選定が成長を左右するという考え方です。
これを非営利セクターに置き換えると、社会課題や活動内容によってファンドレイジングの手段にも“向き不向き”がある、ということ。
具体的なやり方やノウハウも大事ですが、「いくら正しい努力をしても、ファンドレイザーにとっては変えられない要因で、資金調達の成果が規定されてしまう部分もある」ということは、ぜひ頭に入れておかれてください。
その場合は、個人向けマーケティングでは高い目標を設定せず、「企業とCSRやSDGs文脈での協業を提案する」や「財団からの助成金にフォーカスする」など別のファンドレイジングの施策を検討するのが適切かもしれません。
もちろん与えられた条件が有利ではない場合でも、「メインで訴求する社会課題の置き方」や「押し出す活動内容の見せ方」など、マーケティングを工夫することによって、“なんとかする”ことが可能な場合もあります。
このような「ポジショニングの取り方」や「訴求メッセージの作り方」についても、また別の機会に解説したいと思います。