広告のストーリー、CV数に圧倒的な差が出た理由
もしあなたがFacebookに登録しているなら、NGO・NPOの動画広告がニュースフィードに流れてくるのをご覧になったことがあるかもしれません。
動画の内容は団体や活動等によってそれぞれですが、受益者の「活動地の子どもの成長」や職員の「日本人スタッフの奮闘」など、個人の具体的なエピソードに焦点を当てた内容が多いはずです。
なぜ個人に焦点を当てたエピソードが、広告で多用されているのか?
ファンドレイジングに取り組んだ経験のある方ならご存知のとおり、寄付という行動を引き起こす最初のトリガーとなりやすいのが、「論理」ではなく「感情」。1人の具体的なエピソードを通じて、社会課題や活動を語ることが、寄付者の感情を動かし、共感を呼ぶために効果的に作用するのです。
では、個人のエピソードならどのような内容でも、寄付に結びつくのか?もちろん、そんなことはありません。エピソードの内容や構成の仕方によって、共感を生めるか?寄付につながるか?は、大きく異なるのです。
具体的な事例を通して、説明してまいりましょう。
認定NPO法人かものはしプロジェクトでは、インドはじめ途上国で人身売買の被害にあった女性(サバイバー)をサポートする活動を行なってきました。
一般の日本人には馴染みのない社会課題ということもあり、一人のサバイバーがどのようなきっかけで被害を受け、その苦しみを乗り越えてきたのか?をまとめた動画を制作。FacebookやYoutubeなどで、動画を配信しています。
アリーシャ(仮名)という女性について、それぞれ別のエピソードにスポットを当てた動画を2パターン制作したことがありました。広告として配信したところ、全く異なる結果が出ました。
「支援をもとに裁判を起こし、保証金を得られた」という団体の活動や成果にフォーカスした動画(実際の動画はこちら)は、残念ながらサポーター会員の獲得には1件もつながりませんでした。その一方で、サバイバーの父親に焦点を当て、「娘が行方不明になり、心配でずっと探していた」「裁判でも娘に寄り添い、励ましていた」といった家族の絆を強調した動画(実際の動画はこちら)からは、サポーター会員の獲得が100件近くにのぼりました。
同じ受益者の実例でも、その焦点の当て方や編集の仕方1つで、ファンドレイジングの成果が大きく変わってしまう。この結果には私自身も驚くとともに、ストーリーの重要性を改めて認識しました。
人が共感する物語には、古来から共通するパターンがある
先ほどの実例のように、活動に関わる受益者やスタッフなどにまつわる、具体的な事例やエピソードを、ファンドレイジングのために編集して発信する情報のことを、「ストーリー」と私は呼んでいます。
このストーリー開発のうえで、難しいのは”当たり外れ”が大きいこと。「共感してもらえるか?」は、主観的な要素も大きくロジックによる予測が難しい、いわば”水もの”です。
私自身も、「このストーリーは、ヒットするはず!」と意気込んで制作したものの、ほとんどレスポンスがなかった。という残念な経験を少なからずしてきました。
それでも、寄付につながるストーリーには一定のパターンがあります。その型を知ることで、成功確率を高められるのです。
「神話の法則」という言葉を聞いたことはありますか?世界中にある神話や伝承の構造は、一つ一つ具体的な内容は異なっていても、その構造は90%以上共通しているそうです。
あるとき、それまで平和に過ごしていた主人公が苦しい状態に置かれる。ありふれた日常を離れて、冒険に出る。危機的な状況に陥るも、パートナーと出会ったことをきっかけに、何とか危機を逃れる。その後、数々の困難を克服しながら成長していくことで、最終的に主人公は勝利し、再び平和を手に入れる。
「スター・ウォーズ」や「インディ・ジョーンズ」など人気のハリウッド映画も、実はこの神話の法則に基づいてシナリオが作られているケースが多いのです。
(参考図書)「神話の法則 夢を語る技術」(クリストファー・ボグラー)
私がストーリー開発を手がけるときには、「神話の法則」に沿ってプロットを作ることを意識しています。
(当然ながら、実際に起こっていた事実の範囲内で編集しますし、また受益者についてはプライバシー保護のため、名前など個人が特定されて不利益を被ることがないように配慮します。)
もちろん失敗はありますが、感覚やセンスに頼って制作するよりも、”外れ”の確率を下げることはできていると捉えています。
「神話の法則」の他にも、心理学や行動経済学など人の共感や行動を促す知見はありますが、これらのルールに沿うことで、共感を得るストーリーは作りやすくなるのです。
受益者・スタッフ・支援者の3軸で、振り返りと棚卸しを
このストーリーですが、ファンドレイジングで活用されるのは受益者・スタッフ・支援者の主に3つに分類できます。
1つ目、デジタル広告など新規寄付者獲得のために最も多く活用されているのが、受益者のストーリーです。たとえば支援が必要な子どもが、どれだけ大変な状況に置かれているか?どんな夢を持って頑張っているか?リアルなシーンが心に浮かべば、支援の必要性を実感される方も多いでしょう。
2つ目が、現地スタッフや代表者など担い手のストーリー。どんな想いやきっかけで活動を立ち上げたのか?現場での葛藤や支援の手応え、未来のビジョンは?
有名な国際NGOが支援者に送る紙のDM(ダイレクトメール)でも、「日本人スタッフからの手紙」が同封されているケースがよく見つかりますが、「遠い国の出来事」「私とは関係ない世界」ではなく”自分ごと”と捉えてもらうためにも、支援の担い手を1人の人間として身近に感じてもらうアプローチは有効です。
3つ目が、支援者のストーリーです。なぜマンスリーサポートを始めたのか?寄付を決めるときに迷ったことや、支援を継続して抱いている気持ちは?
現状ではWEBサイトやニュースレターなどに「寄付者の声」として掲載される程度で、新規獲得など寄付のメイン訴求としてはまだ活用されている事例は多くありません。しかし、今後デジタル・ファンドレイジングの競争が厳しくなって、1つ目や2つ目だけでは有効に作用しにくくなった時には、重要性を増すと個人的には予測しています。
ファンドレイジングにおけるストーリーの有効性と、共感ストーリーの作り方をこれまで解説してきました。
そうは言っても、自団体でどのようなストーリーを発信していけばよいのか?疑問を抱かれた方は、これまでに発信した事例やエピソードをぜひ見直してみてください。
デジタルマーケティングに本格的には取り組んでこなかった団体さんで、私がストーリー開発を手がけるときには、過去の発信で「引きの強かった」ストーリーがなかったか?を、見直すようおすすめしています。
- クラウドファンディングや既存寄付者向けのDM・メールなどで、寄付を獲得できた実績のあった打ち出し方は?
- SNS・ブログやメルマガなどで、いいね!やコメントなど多くもらえた事例は?
- あるいは講演や報告会、あるいはリアルでのプレゼンで、手応えのあった話は?
ぜひ足跡を振り返ってみてください。
今の支援者が共感するポイント、あるいは活動現場に眠っているエピソードが、デジタルマーケティングのうえでも有効と考えています。