タスクが山積みのなかでも、なぜ寄付者さん一人ひとりに話を聞くべきなのか?
「寄付者さんの声に耳を傾ける」「ドナーとの対話を大切に」というと、多くのファンドレイザーに賛同いただけるでしょう。
ところが、いざお話を伺おうとなると、「実務で忙しいなか工数をとれない」「お話しを聞ける人の当てがない」などの理由で、実行に移せる団体は多くありません。
そんななか、なぜ筆者が一人ひとりの寄付者さんのお話を聞くことの大切さを訴えるのか?
それは、寄付者さんのインサイトを理解できているか否かによって、ファンドレイジングの成果が大きく変わってくる、と10年弱コンサルティングを重ねた経験からわかってきたからです。
筆者の専門はデジタルマーケティングですが、成果を上げるために最も大事なのは、マーケティングのフレームワークでもデジタルの最新知識でもありません。
「どんな人に何を伝えると、共感してもらえるか?」「寄付を申し込むという行動をとってもらえるか?」を理解していることです。
もしあなたの団体に、1対1の営業やイベントでの講演などで、寄付者さんとリアルにお話しする機会が多く、これらを肌感覚としてもつかんでいるスタッフがいらっしゃるとします。
その場合は、デジタル上で施策を展開しても成功確率が高くなります。
一方、“寄付者理解”が間違っていると、いくら他団体のやり方をマネても、最新のノウハウを駆使しても、空回りとなってしまいがちです。
これはビジネスの世界でも同じで、「顧客理解」の重要性がしきりと説かれています。
“成果を出す第一歩は、「誰に?(顧客理解)」「何を?(顧客価値)」という企画と判断の基準を揃えてから、「どのように?(実現の4P施策)」のモノやサービス、施策を作ることです。
実際にお金や時間を負担する顧客と、顧客が感じている価値を外した施策は、投資しても驚くほど反応がなく成果も出ません。”
(Marketing Native「成果を出し続けるために必要なマーケティング思考の身に付け方」より)
寄付収入を伸ばした団体さんで、大元の仕組みを構築した人と話をしていくと、自分たちの寄付者さんのターゲットはどんな方か?何を伝えれば響くのか?を解像度高く把握している方が多いように感じます。
定量データの分析だけではなく、定性調査からのインサイト発見が重要
寄付者理解を高めるというと、「アンケートは既にとっているが、それではダメなのか?」というご質問もいただきます。
たしかにアンケートでは、回答者の母数を多くとれ、定量的に分析もできて便利です。
しかし、「寄付を決めたときに、どんな言葉が一番響いたか?」「迷いや不安をどのように払拭したのか?」といったリアルな気持ちの変化を、自由記述などで答えてくれる方は、ごく少数のはずです。
また、有効な回答を引き出すためには、質問の設計に高度なノウハウが必要です。
一方、一人ひとりに個別でお話を伺っていく「デプスインタビュー」(以後インタビュー)では、言葉だけではなく雰囲気や話し方なども合わせ、得られる情報が圧倒的に多くなります。
質問のお答えの内容しだいでヒントが浮かび、その場で思い浮かんだ別の仮説を確かめていけます。
つまり、筋の良い仮説を最短距離で立てていくのに適しているのです。
私自身もNPOに転職してファンドレイジングの仕事を始めたとき、最初に取り組んだのは、既にご支援くださっているマンスリーサポーターの方10人にお話を聞きに行くことでした。
オフィスを訪ねたり、通勤帰りのカフェなどで、ご支援の動機や団体への期待を話してもらいました。
寄付を募るランディングページやDMを制作するときも、「あの人なら、きっと共感してくれる」「この人に向けてご支援のお願いの手紙を書くとしたら?」とターゲットとなる寄付者さんの顔を思い浮かべられたことが、レスポンスを高めてくれたと感じています。
初めてトライする人からよくいただく、7つの質問
インタビューの準備に際して、実務的な面でよくいただくご質問に、順にお答えしていきます。
1つ目にインタビューの時間(長さ)ですが、最低でも30分、できれば余裕をもって60分を見ておけるとよいでしょう。
後述しますが、アイスブレイクをして寄付者さんと仲良くなることも大事ですし、時には脱線して寄付者さんの人生のストーリーにじっくり耳を傾けることで、インサイト(=ご支援に至る深い動機)が立体的に見えてくることがあるからです。
2つ目にインタビューの場所は、お互いの時間の調整のしやすさもあり、オンラインをおすすめします。
もちろん対面のほうが相手の雰囲気や表情の変化など細やかに感じ取れて理想的ではあるのですが、画面越しでも取り立てて支障を感じたことはありませんでした。
3つ目に団体側の参加者は、1-2名程度とすることをお勧めします。
3名以上となると相手に無意識にプレッシャーをかけてしまい、リラックスして話しづらくなると言われるからです。
4つ目にインタビューする寄付者の人数ですが、最低3人、できれば5人には聞きましょう。
明確な基準はありませんが、類似する「ユーザビリティ調査」では、対象者の人数を増やすたびに新しく発見できる課題が減っていき、「5人でユーザテストすればユーザビリティ上の問題のうち85%が見つかる」ことが知られています。
(Mikio Kiura / ANKR DESIGNのnote「「5人でユーザテストすればユーザビリティ上の問題のうち85%が見つかる」の元ネタ論文を解説する」より)
なお一度複数の寄付者に実施した後も、できれば月に1人ずつなど継続的・習慣的に寄付者の声を伺っていくことをお勧めします。
5つ目に対象者は、自団体の寄付者さんについて全般的に理解を深めたい場合は、既存のドナーからご協力いただける方を募りましょう。
初めて実施する場合は、長年寄付を続けてくださっている方のほか、支援を始めたばかりの方や場合によってはマンスリーサポーターを退会された方など、さまざまな方に声をかけることをおすすめします。
また年齢や性別、地域などの属性も偏りすぎずに広くとると、多様な声を拾えてよいでしょう。
6つ目に連絡方法は、自団体のデータベースから選定し、メールまたはSNSや個別のメッセージなどで依頼することが多いです。
面識のない寄付者さんについては、メッセージを送っても反応がなかったり、お断りのお返事をいただく場合がほとんどです。
「10人のうち1,2人ご協力いただければ御の字くらい」、と想定して声をかけてみましょう。
7つ目の質問内容について、詳しくは次回の記事で解説しますが、寄付をする前・決めた瞬間・した後の3つに分けて、その時の行動や感情について質問していきます。
なお今回は割愛しますが、応用編として「新しい訴求メッセージの筋の良し悪しを検討したい」や「ファンドレイジング戦略を策定する」といった、特定の仮説の立案または検証のためにドナーインタビューを活用する場合もあります。
そういった目的のもとで行う場合には、自団体の寄付者だけではなく、団体を知らなかった方や他の団体に寄付している方にお話しを聞きましょう。
その場合は、リサーチ会社の提供するリサーチパネルやクラウドソーシングサービスなどを利用することもあります。
今回は「入門編」として、ドナーインタビューが重要な理由とその実行に向けたポイントをお伝えしました。
では、インタビューでは具体的にどのような質問をすればよいのか?何を聞き出せれば成功と言えるのか?次回の「実践編」でご説明してまいります。
「ドナーインタビュー実践編:寄付者さんの“リアルな気持ちの変化”を聞き出す、質問のコツ」はこちら