若者vsシニア、どちらを優先すべき?「寄付白書」をひも解くと‥
「ご支援者が60代以上が多く、“高齢化”している。若返りをはかりたい」や「20〜30代など若い世代向けに、寄付をアピールできないか?」など、ご支援者の年齢層やターゲットについて、ご相談をいただくことがあります。
仮に「若年層をターゲットに寄付を募る」というお題を考えたとき、市場規模がどの程度あるのか?を定量的なデータから見ていきましょう。
ここで活用するのが、日本ファンドレイジング協会の発行する「寄付白書」です。
年代別の寄付者率と、一人あたりの平均寄付額を比較
「寄付白書 2021」では年代別に「寄付した人の割合」(以後寄付者率)や「1人あたりの寄付した平均金額」(以後平均寄付額)といったデータが出ています。
年代が上がるほど緩やかにですが、寄付者率や平均寄付額も増えていることがわかります。
※「寄付者率」と「平均寄付額」は、NPO等への寄付として一般的にイメージされるものに近いカテゴリー1(まちづくり 、緊急災害支援、国際協力・交流、芸術文化・スポーツ、教育・研究、医療・福祉、子ども・青少年育成、自然・環境保全、社会貢献活動の中間支援など)への寄付のみを抽出。カテゴリー2(国や都道府県や市区町村、政治献金、宗教関連、共同募金会や日本赤十字社、自治会・町内会など)および、カテゴリー3(ふるさと納税)を除く。
市場規模の年代別シェアを概算
これらの数値に、政府が発行する人口統計データを掛け合わせてみましょう。
たとえば、20代の人口は約1,267万人。これに寄付白書の寄付者率を掛け合わせると、寄付者人口が約142万人と推計できます。
さらに1年間の平均寄付額の5,040円を掛け合わせると、142万人×5,040円=約72億円。これが20代の寄付市場の規模の推計値です。
同じように、60代の人口に寄付者率の19.4%と平均寄付額の17,957円を掛け合わせると、約521億円と20代の約7.3倍です。
同様に、年代ごとに寄付者率と年間平均寄付額を掛け合わせて合計値を出すと、年代別の市場規模のシェアを概算できます。
※「寄付白書には、10代以下と80代以上が含まれない」「異なるデータソースを掛け合わせているので、分類や定義などに整合性の懸念も」といったように、必ずしも正確な実データとは言えません。規模感や比率の推定のために活用する、あくまで参考値と捉えてください。
これらから、20-30代の「市場規模」の全体のなかでの割合を計算すると、9.1%。40代を合わせても、25.9%と3割にも満たない比率です。
逆に高齢層は、60代の24.5%と70代の25.8%で合わせて50.3%。50代の23.8%をたすと74.1%を占めます。
これらの推定値だけから見ると、若年層向けに寄付をアピールしても、市場の3割以下にしかリーチできないと分かります。
もちろん、20-30代の若い方々の社会貢献意識が高まっていることが知られています。
しかし、人口や可処分所得の観点から、ボリュームとしては大きくありません。
ターゲットを絞って特化するアプローチももちろん「あり」ですが、その反面、7割以上を「捨てる」ことになると理解した方がよいでしょう。
スマホ×SNSの波は、コロナ禍を経てシニアにも
逆に言えば、多くのNPO・NGOにとっては、40-50代の中高年層や65歳以上のシニアの方々にいかに寄付してもらえるか?が外せないテーマになってきているということ。
それでは、どのようにアプローチできるのでしょう?
たとえばマンスリーサポーターを新規に獲得するうえでは、これまではテレビやダイレクトメールなどオフラインの媒体、あるいは「Face to Face」と呼ばれる街頭でのキャンペーンからの比率が、中高年層やシニア層については高いと言われてきました。
ところが、最近ではデジタルの比率が高まる団体が増えているようです。
その背景にあるのが、コロナ禍での「行動変容」。
たとえばスマホ利用者の割合が、60代ではコロナ禍前(2019年10月)の60%から、コロナ禍を経て(22年10月)82%と大きく伸びました。
70代でもコロナ禍前(19年10月)の29%から、22年10月には54%と過半数になりました。
70-79歳によるスマホ利用率の推移
クレジットカードなど決済情報をオンラインで入力して、ECサイトでの買い物やサービスへ課金する、といった行動も徐々に浸透してきました。
「高齢層は、デジタルでは接触できない」「シニアは、ネットでは寄付してくれない」といったこれまで一般的だった考え方が、通用しなくなってきたのです。
LINEは、高齢者にもインフラとして普及
ご高齢の親御さんやご親族がいらっしゃる方は、LINEの利用頻度がシニア層でも高まっているのを実感されていませんか?
「お孫さんの写真が送られてくるのを楽しみにしている」「帰省できなくなったので、せめてLINE通話で顔を見ながら話す」「会えなくなった友人と、LINEグループを使い交流する」といった利用シーンです。
LINE公式アカウントを開設するNPO・NGOも、増えてきました。
寄付を募る広告はLINEではこれまで禁止されていましたが、2023年1月からは審査基準の変更にともない“解禁”され、いくつかの団体が出稿しているのが見られます。
「インスタ映え」は、若者だけではない
中高年の方々にお話を聴いていくと、よく話題にあがるのが「Instagram(インスタグラム)」。
「寄付したきっかけは、Instagramで見た広告」「国際協力を検索して調べたらNGOの広告が表示されるようになった」といった声が主に女性から挙がります。
「デプスインタビュー」といって、定期的な寄付者お一人ひとりにお話を伺っていくと、料理や園芸、ペットなど趣味が合う人をフォロー。
「DMで仲良くなる」「近くの人とお茶する」など活発にコミュニケーションをとっている様子を話してくださった方も何人かいました。
Instagramの利用率は、60代は13.4%と低いですが、40代は50.3%・50代は38.7%。もはや「若者向けメディア」ではなくなってきています。
(出典:「令和3年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」総務省情報通信政策研究所)
もちろん引き続き、テレビや新聞などオフラインのメディア、街頭やイベントなど対面でのコミュニケーションも有効なはずです。
しかしコロナ禍を経てデジタルツールが高齢層にも普及しつつある今、WEBサイトやフォーム、メールやSNSなどを中高年やシニアの方々にも使いやすく整備していくことで、オンラインでも寄付を募れるようになってきています。
NPO業界の“常識”や、同世代の感覚を押し付けない
では、中高年やシニア層にどのように寄付を募っていけばよいか?訴求やクリエイティブといった観点から、最後に見ていきましょう。
結論としては、過去にご紹介した記事にも挙げたような、オーソドックスな流れを重視しましょう。具体的には‥
- 統計や概念ではなく、受益者やスタッフなど個人に焦点をあてたストーリーで共感してもらう
- よく知られている社会課題やテーマに絞って、活動内容をわかりやすくシンプルに伝える
- 解決策や成果をいきなり伝えるのではなく、まずは課題の深刻さをリアルな描写で実感してもらう
大手国際NGOなどが伝統的にテレビやダイレクトメール、電話での勧誘などでとっていた手法を、オンラインに置き換えるのです。
ご支援者には“ピンとこない”表現が生まれてしまう構造
一方、このような手法には、「“苦しんでいる子どもを助ける”という紋切り型の打ち出し方はしたくない」「団体として大事にしている、抽象度が高いコンセプトをしっかり伝えたい」といった意見が寄せられることも少なくありません。
もちろん団体として表現できる範囲のレギュレーションを遵守することや、ミッションや想いを踏まえ寄付依頼のメッセージを作り上げることも大切です。
では、「自分たちの大事にしていることをストレートに伝えたら、共感してもらえるか?」「はじめましての人々にも、ご寄付をいただけるか?」というと、そうとは限らない構造は、理解した方がよいかもしれません。
なぜなら、寄付を募る側と寄付をしてくださる方々では、属性も志向も価値観も、全く異なることが多いからです。
東京を拠点に活動する、設立から10年ほどの比較的若いNPO法人を仮のケースとして考えてみましょう。
- はじめに年齢。ファンドレイジングに取り組むスタッフも、20,30代の方も多いはずです。一方、寄付者の比率は上述のとおり、50代以上が多い傾向です。
- また東京と地方では、価値観や志向などが異なるのは、実感したことがある方もいらっしゃるはずです。
- NGO・NPOのスタッフとひとくくりにはできませんが、大卒以上なかには大学院卒など高学歴の方が多く、社会課題への理解度・リテラシーも高い傾向です。
- これも一般化はできませんが、政治や社会についてはリベラルな信条を抱いている方が多くいらっしゃるように見受けられます。
一方、寄付をする方はそうとは限りません。
むしろ逆の価値観や志向を抱いている方もおられますし、理解度・リテラシーも高い人から低い人まで多様にいらっしゃいます。
そんななか、普段仕事で接している仲間や同世代のコミュニティの友人たちと同じ感覚で訴求表現を考えてしまうと、「言いたいことが伝わらない」は容易に想像できるでしょう。
「抽象的すぎて、わからない」、したがって「寄付は集まらない」、でも「NPO業界での評判は良い」といった表現が生まれてしまうのです。
「親戚のおじさん」に、説明するなら?
したがって、ご高齢の方々を含め広く一般市民にも共感してもらい、支援者層を広げていくためには、一部の「リテラシーが高い層」「社会課題への感度が高い人」にだけ受けが良いのではない、多様性を前提にしたうえでの表現が求められるのです。
特にご高齢の方は、自分の価値観や信念と異なるものを取り入れにくい傾向が、知られています。
これまで馴染みがなかったコンセプトや、抽象度の高い概念を初めて知る団体から言われても、耳を塞がれてしまうことが多いでしょう。
国内の子ども支援団体に寄付する方では、「私も小さな頃に苦労した。周りに助けてもらい、なんとか大学に進学できた」など、ご自身のストーリーと重ね合わせ、寄付の動機を語る方もいらっしゃいます。
また国際協力の支援者でも上の世代ほど「豊かな日本で暮らすなか、貧しい国の子どもに何かしたい」といった対比を語る方が増えますし、最近では“子ども食堂”などテレビなどでの報道をきっかけに、寄付先を検討する方も多い印象です。
年上の世代の方々にも馴染みやすいテーマやプロットに置き換え、まずは自分たちの活動を知って共感してもらうこと。
寄付者さんの経験や価値観に沿うよう、自団体の強みを表現できないか?を考えてみましょう。
(ファンドレイザー側の世代や出身地域などにもよりますが)たとえば実家の近くにいる「親戚のおじさん」に話して、理解してもらえるか?を基準に置き考えると、気づきが生まれるかもしれません。
最後に、中高年やシニアの方々について解像度高く理解するにはどうすればよいか?ですが、一人ひとりにお話を伺うのが、遠回りに見えて近道と考えています。
私はこの1年間で20人以上、50代以上の方々を中心にお話を聞いてきましたが、寄付に至るきっかけや共感ポイント、背景にある価値観や生活シーンなど、データでは見えなかったたくさんの気づきをもらいました。
ご支援者さんに、「なぜ寄付先として選んでくださったか?」をぜひ質問してみましょう。
それが難しい場合でも、ご家族や知人などNPO業界以外の方々に感想を聞くだけでも、ヒントが得られるはずです。
自団体ではなく、寄付をする一般の方々を起点に考えてみること、ぜひ実践してみてください。