トレンド4:クラウドファンディングから、“Peer to Peer”へ?
4つ目のトレンドは、“Peer to Peer”の盛り上がりです。
Peer to Peerとは、寄付者やボランティアスタッフなど一般の方々が、団体のために寄付を募ること。
オンライン上で支援者ごとにページを立ち上げて、メッセージをつづったり目標金額を載せたりするのが、一般的です。
日本でも、マラソン大会でチャリティランナーになる方がFacebookで友人に寄付を呼びかけたり、プラットフォームサイト上で「ダイエット」など行動を宣言して寄付を募ったりといった行動は、なじみがあるかもしれません。
企業ブースを回ると、Peer to Peerのファンドレイジングのためのシステムを提供している企業が目立っていました。
私が受けたセッション、「Create an OMG Peer Fundraising Campaign on a DIY Budge」もたくさんの受講者が詰めかけていました。
(逆に、クラウドファンディングのセッションは参加者も少なく、「ピークを過ぎたのを実感した」という受講者の声も)
日本で行われるPeer to Peerのキャンペーンは、外部プラットフォーム上での展開が一般的ですが、複数の支援企業が提供していたのは、自社ドメインでPeer to Peer を行える仕組み。
すなわち、団体のサイト上でブログをアップするのと同じような感覚で、Peer to Peerのキャンペーンを始められるというのものです。
自社サイト上で行うメリットは、「デザイン統一の信頼感」や「ファンドレイザーが公式感を実感できる」などいくつかありますが、重要なのが「データ活用」によるリピート施策が可能になることです。
クラウドファンディングやPeer to Peerといったキャンペーン型の寄付募集は、「通常の寄付と比べて集まりやすく、目標金額は達成できるものの、単発の支援にとどまってしまう方が多い」という声を、日本のいくつかの団体から伺ってきました。
ソーシャルメディア上でのシェアや知人友人へのメールでの依頼など、目標達成のためには人的コストがかかります。
その割には募集できる期間も短く、「再現性が低い」というデメリットもありました。
またプラットフォームを活用すると、フォームや決済などバックヤードの仕組みを自社で整えなくてよい代わりに、寄付者データの活用を制限されるのが一般的です。
一方キャンペーンを自社サイト上で展開できれば、寄付者の個人情報をデータベースへ取り込み、マンスリーサポーターなど継続的な支援の呼びかけが、一般の寄付者と同じようにできるようになります。
またページを訪問したユーザーへの「リマーケティング広告」や「トリガーメールの配信」など、コンバージョンを刈り取る施策も同様に行えます。
もしPeer to Peerの自社サイト上での展開によって以下の仕組みがつくれたら、新規ドナー獲得の強力なチャネルになりえます。
- オペレーション工数やプロモーション費用をかけずに、支援者が自発的に寄付を募集
- 初めての寄付者が、マンスリーサポーターなど継続的な寄付まで一定確率で引き上げられる
Peer to Peerのシステムを提供しているのは、rallyboundやDonarDrive、Classyなど。
展示ブースを訪ねたり、事前にWEBサイトから質問のメールを送ったりなどで、「日本市場への展開は考えてないか?」を聞いて回りましたが、私の確認できた限りで「Yes」と回答した企業はおらず、現時点では英語のみでの提供となるようです。
ただし、外部でのインターフェイスが日本語で表示できる場合もあるようですし、英語に慣れたスタッフが多い国際NGOなどは検討できるかもしれません。
トレンド5:マンスリーサポーター獲得の「2ステップ化」
最後に5つ目のトレンド、マンスリーサポーター獲得の「2ステップ化」です。
企業ブースでは、デジタルマーケティング関連企業は多く出展していましたが、私が面白いと感じたのはSocial Blueという広告会社。
Facebook広告やInstagram広告を通じて新規ドナーを募るサポートをしていますが、特徴的なのが寄付に至るまでのステップです。
広告でははじめに、「メール会員登録」や「資料請求」など無料のオファーで、課題に関心のあるユーザーの登録を促します。
オンラインで集めた見込み客に電話やメールでアプローチ、マンスリーサポーターなど寄付の登録を促すという、「2ステップマーケティング」と呼ばれる方法です。
日本では広告活用というと、1ステップで寄付を募るのが一般的ですが、ネット広告全般の配信単価の上昇にともない、CPA(=寄付者1人あたりを獲得するのにかかる費用)は、長期的に上昇傾向にあります。
さらにオンラインでの投資に本腰を入れるNGO/NPOが増えるにつれ、コストの高騰は加速していくでしょう。
ビジネスの世界でも、たとえばEC(ネット通販)では、参入する企業が増えるにつれて、「無料お試し」や「980円トライアルセット」などで見込み客を集める、2ステップに舵を切る企業が増えています。
もしかしたら2−3年間で日本でも、デジタル・ファンドレイジングの主流は2ステップ方式へと移行していくかもしれません。
見込み客を集めるための「オファー」(=申し込みのきっかけ)として考えられるのは、伝統的な「資料請求」や「メルマガ登録」のほか、「オンライン署名」や「アンケート」なども。
先ほど紹介した企業は、コールセンターからのアウトバウンドコール(電話)を推奨していましたが、オンラインでのアプローチも有効でしょう。
日本でも、MarketoがNPO支援プログラムを実施するなど、NPOでのマーケティングオートメーション(MA)活用も少しずつ進んできています。
オンラインでリストを広く集めて、ドナーピラミッドを一歩ずつ上ってもらう仕組みづくりは、これから検討していきたいと考えています。
“Why Innovate ?” 2020年を見据えて、今取り組むべきこと
今回ご紹介した5つのトレンド以外にも、「Mobile Bidding」や「VR(Virtual Reality)の活用」、「支援者向けアプリ」など、興味深い事例やトレンドがありました。
この記事では割愛させていただきますが、またの機会があれば、紹介させてください。
今回書いたトレンドは、日本の「非営利セクター」という文脈では非現実的に見えるかもしれません。
5つのなかには、現時点では日本のNGO/NPOが取り組むのは難しい施策も含まれています。
しかし過去を振り返ると、たとえば5年前。
現在はオンラインでの獲得の主力チャネルとなっている「スマホ」や「動画」も、ここまで育つとは当時は信じられませんでした。
デジタル・マーケティングは、変化が早い世界。
2020年には、世の中の流れや非営利の世界での動きが追いついているかもしれません。
今回のカンファレンスで私が最も印象に残ったセッション、“Effective fundraising innovation built into the DNA of your organization! “で強調されていたのは、イノベーションへの投資の必要性。
“Why Innovate ?”(=なぜイノベーションに取り組むのか?)の問いに対する、答えが「リスクを取らないリスク」でした。
既に成功している組織でも、チャレンジしない限り、この先に成功し続ける保証はない。
そんな課題意識のもと、イノベーションを評価するためのフレームワークや、組織として取り組むためのリソース配分の見直し法、トライアルを奨励する文化の必要性などが解説されていました。
私自身も、日本でクライアントはじめNGO/NPOの方々に、今回のカンファレンスで体感したトレンドを伝え、また新しいチャレンジへの取り組みを促していきたいと考えてまいります。
そして、未来の波が訪れてきたときにすかさず乗り移れるよう、種を蒔きつつ最新情報にキャッチアップしていきます。