社会的インパクトとは?インパクト投資とは?評価の基本と企業事例も

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昨今、ニュースなどで「社会インパクト」「インパクト投資」など の言葉を耳にするようになりました。インパクトは日本語で”影響”と訳されますが、ここでのインパクトとは社会・環境へのポジティブな変化を指します。 今回はニュースなどで「社会的インパクト」に興味を持ち、これから学んでみたいと思う初心者の方に向けて、社会的インパクトの概要とインパクト創出のためのPDCAサイクルであるインパクト測定・マネジメント(IMM)を解説し、インパクト投資にも触れた上で、実際にIMMを導入している企業事例をご紹介します。

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目次

社会的インパクト(ソーシャルインパクト)とは?意味と定義

社会的インパクト(ソーシャルインパクト)とは、「短期、長期の変化を含め、当該事業や活動の結果として生じた社会的、環境的なアウトカム(変化・効果)」を指します。
インパクトという言葉や概念はソーシャルセクター、中でも途上国開発の文脈の中で生まれました。

通常、企業が事業評価をする際にはその価値を定量的に”金額”で表しますが、途上国開発の事業ではそれを事業や活動の結果として生じた社会的、環境的なポジティブな変化、つまり「インパクト」の多寡によって成否が判断されます。

社会的インパクトとは何か、一般財団法人社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブによれば次のように定義されています。

インパクト  :短期、長期の変化を含め、当該事業や活動の結果として生じた社会的、環境的なアウトカム

以下の章ではインパクトを理解しやすくするために、関連する用語について解説します。

ロジックモデル

では、インパクトはどのように生み出されるのでしょう。それに役立つのがロジックモデルです。ロジックモデルとは、ある事業において投入する資源、活動、結果として生まれる製品(モノ)やサービス、それによる成果、その成果がもたらす変化・効果の因果関係を体系的に表したものです。

一般的に、ロジックモデルは「インプット」、「活動」、「アウトプット」、「アウトカム」の四つの要素で構成されます。

インプット  :事業活動(諸活動)等を行うために使う資源(ヒト・モノ・カネ)
活動     :モノ・サービスを提供するために行う諸活動
アウトプット :事業活動によって変化・効果を生み出すために提供するモノ・サービス
アウトカム  :事業や組織が生み出すことを目的としている変化・効果
(出典:社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ)

アウトカム、特に長期アウトカムに関してはインパクトとほぼ同義で使われる事が多いです。

上記の図は就労支援事業を行っているFunDioを例として、それぞれの要素が「もしこれが起こったら、こうなる」というロジックで繋がっています。
つまり、ロジックモデルは「このような活動をすればこのような結果や成果が得られ、それによりこのような変化が起こるはず」という仮説という事になります。

アウトプット・アウトカムの違い

アウトプットとアウトカムについては、日本語に訳すと「アウトプット=結果」「アウトカム=成果」と訳される事が多く、混同される事があるので少し説明を加えます。

一般の企業に置き換えた場合、アウトプットは製品やサービスそのものになります。アウトカムは製品やサービスによって得られる変化です。

例えば、「病気と介護の不安と孤独のない、生きるエネルギーがあふれる社会をつくる」事をビジョンとして掲げているカーブスを例にしてみます。

  • 「女性だけの30分健康体操教室」というサービスの開発はアクティビティです。
  • 上記の体操教室というサービスの完成がアウトプットです。
  • 体操教室を利用した結果、利用者が健康的な身体になる事がアウトカムです。
  • 利用者が健康になった事により「病気と介護の不安と孤独のない、生きるエネルギーがあふれる社会になる」という社会変化がインパクトです。

社会的インパクト投資とは?

一般的に投資と言えば金銭的なリターンを得る事が目的ですが、インパクト投資は金銭的リターンに加え環境的・社会的課題を解決する、つまりインパクトを生み出す事も投資の目的です。インパクト投資に関する世界的なネットワークであるグローバル・インパクト・インベスティング・ネットワーク(GIIN)は以下の用に定義しています。

「インパクト投資とは、金銭的なリターンと平行して、ポジティブで測定可能な社会的・環境的インパクトを生み出すことを意図して行われる投資」

平たく言えば、以下の3点が揃っている事がインパクト投資の条件になります。

  1. 金銭的リターンを追求する事
  2. ポジティブなインパクトを創出する意図がある事
  3. インパクトの測定・報告をする事

インパクト投資は、このインパクト測定・マネジメントを行う事が特徴的です。

日本の機関投資家の中では、2017年からパイオニアとして第一生命保険株式会社がインパクト投資に取り組んでいます。

例えば、「治療成績の飛躍的向上、健康寿命の延伸、医療費削減」というインパクト創出を意図し、ニコチン依存症等の治療アプリの研究をしている株式会社キュアアップに10億円の投資を行っています。

第一生命保険の公式ホームページです。一生涯のパートナーとしてあなたに最適な保険商品をご提案。当社のCSR(企業の社会的責任)の取組みを紹介しています。

拡大するインパクト投資

インパクト投資の市場は拡大しています。

GSG国内諮問委員会による「日本におけるインパクト投資の現状と課題 -2022年度調査-」においても、日本におけるインパクト投資残高は、5兆8,480億円、これは前年が1兆3,000億円超であることから前年比4.4倍、既存取組機関残高に関しても3.7倍、新規参入取組機関総数は1.5倍に拡大しました。

インパクト投資が拡大している理由はいくつかありますが、主なものとしては以下のような事が考えられます。

①社会的・環境的課題解決への関心の高まり

SDGs、ESGの流れなど、世界中で、環境問題や社会的課題への取り組みが重要視されています。
民間企業による社会課題解決と持続可能な開発が、消費者からも投資家からも求められ、インパクトを追求するスタートアップも増えてきています。

➁様々な取り組み機関の参入

もともとインパクト投資の対象は公共性の高いビジネスが多く、主要な投資家は国際開発金融機関や財団などでした。
海外や日本においても休眠預金などが公共性の高い事業に投資されてきましたが、民間の金融機関や事業会社が参入するようになりました。

➂インパクト測定・管理の手法の研究が進んだ事

インパクト投資の条件の一つにIMMが行われている事と前述しましたが、「なんとなく社会や環境にいい会社」に投資しただけではインパクト投資とは言えません。

金銭的リターンは財務諸表で可視化されるように、「インパクト・ウォッシュ」にならないためにも社会的リターンも可視化される必要があります。

近年、日本でもGSG国内諮問委員会が日本のインパクト投資家間でのIMM実践の質を高めるためにワーキンググループが設立され、IMM実践ガイドブックなどが公開されています。

社会的インパクトの測定・マネジメント方法

これまで日本では「インパクト評価」という言葉が使われてきましたが、最近では「インパクト測定・マネジメント」(Impact Measurement &Management, IMM)という言葉が使われるようになりました。
この記事ではIMMと呼びますが、基本的には同じ事だと思っていただければと思います。

インパクト投資はインパクト測定・マネジメント(IMM)が肝になるという事を伝えましたが、IMMは創出されるインパクトを最大化するためにPDCAサイクルを回す事なので、インパクト投資を受ける企業だけが行うものではありません。

そもそもインパクトは、パブリックセクター(行政)やソーシャルセクター(NPOなど)の世界では長年最重要の考え方でしたので、インパクトをどのように計測するか、評価するかなどは長い年月をかけてその分野で知見が蓄積されてきました。ここでは簡単にIMMの重要な3要素だけお伝えします。

①事業が起こしたい変化を特定し、計画を立てる

ここでは事業により起こしたい変化(アウトカム)を論理的に説明する事が必要です。

そのためにどのように、なぜその変化が生まれるのかを図式化する「セオリー・オブ・チェンジ」や、目標とするインパクト(または長期アウトカム)を得るためにどのような行動や成果が正のインパクトに繋がるのかを示す「ロジックモデル」などの手法を使う事が一般的です。

➁測定をするための指標を設定する

「インパクトを本当に生み出せているのか?」その問いに答えるためには、インパクトの測定が必要になります。何を測定するのか?については目的によって異なりますが、共通して以下の事が言えます。

  • 測定はシンプルであるべき
  • 測定は比較可能であるべき

測定をするにもコストがかかります。測定は管理可能な範囲内でシンプルにする事が望ましいと言えます。
また、同じ測定方法を長期で行う事により、目標に対する実績を評価する事ができ、傾向を見る事ができます。

指標の中で重要なものをインパクトKPIと呼びますが、こちらは経済的な目標値と相関するように設定した方が良いとされています。

➂モニタリングを行い、インパクト最大化のためにPDCAを回す

指標設定後、定期的に指標の達成状況をモニタリングし、必要であれば改善をします。
この一連PDCAによって、創出するインパクトを最大化させます。

社会的インパクトとIMMについて体系的に学びたい方には「社会的インパクトとは何か 社会変革のための投資・評価・事業戦略ガイド」(マーク・J・エプスタイン、クリスティ・ユーザス 著/鵜尾雅隆、鴨崎貴泰 監訳/松本裕 訳)という書籍をおすすめします。

取り組み事例

ここではIMMを実践しているインパクト企業の事例を2つ紹介します。
インパクトレポートによりロジックモデルやインパクトKPIが公開されており、IMMを導入する・実践するという事がどのようなものなのか、具体的にイメージしていただきやすいと思います。

事例1)すららネット

すららネットは、「教育に変革を、子どもたちに生きる力を。」を企業理念とし、対話式 ICT 教材「すらら」を、国内の塾、学校等に提供している上場企業です。

事業の評価にインパクトマネジメントの手法を取り入れることで、サービス提供から最終的に社会課題を解決し正のインパクトを生み出すまでをロジックモデルとして可視化し、その成果指標を測定しています。

すららネットのプレスリリース(2021年5月26日 10時00分)すららネット インパクトマネジメントレポート初号を発行

事例2)株式会社アドレス

株式会社アドレスは、定額制の多拠点居住プラットフォーム「ADDress」を運営する企業です。

2021年、2022年と2年連続で「社会的インパクト評価レポート」を公開しており、1年間での数値比較も行い、同社サービスの「社会的価値」を可視化しています。

ADDressのプレスリリース(2021年10月15日 10時00分)社会的インパクトレポート公開[ADDress多拠点生活の社会的インパクト評価]
ADDressのプレスリリース(2022年11月1日 11時00分)多拠点生活における[社会的インパクト評価レポート2021-22]を一般公開

まとめ

「社会的インパクト」「インパクト」という言葉は耳馴染みが良く、ポジティブなイメージがあり使いやすい一方で、「なんとなく社会に良い事をしている」事をインパクトを創出していると語る事がインパクトウォッシュになる危険性も孕んでいます。

営利・非営利を問わず、「社会的インパクトを創出している」と明言するためには、インパクト測定・マネジメントを行い「こういう成果が出ています」と可視化する事が求められてきています。
今回の記事が、社会的インパクトやインパクト評価について知りたい思った方が、知識を深めるきっかけになればと思います。

参考文献

須藤 奈応『インパクト投資入門』日本経済新聞出版; New版 (2021/11/26)

マーク・J・エプスタイン、クリスティ・ユーザス 著/鵜尾雅隆、鴨崎貴泰 監訳/松本裕 訳『社会的インパクトとは何か――社会変革のための投資・評価・事業戦略ガイド』英治出版 (2015/10/14)

この記事を書いた人
成瀬 真由
トークンエクスプレス株式会社 企画・マーケティング

大学卒業後、医薬品系専門商社に入社。「自由の女神修復キャンペーン」でコーズマーケティングの先駆けとなった外資系クレジットカード会社に興味を持ち転職し、マーケティングに携わり9年間勤務。
その後6年間専業主婦として過ごしたのち、ビジネスを通して社会的インパクトを創出する事を追求したく、企業の社会的インパクト創出支援を行うトークンエクスプレス株式会社に入社。
「世界にポジティブな変化を起こしたい」と思う方が、「自分も挑戦してみようかな」と一歩踏み出すきっかけとなるような記事が書ければと思っております。

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