インパクトスタートアップとは?
インパクトスタートアップとは、「社会課題の解決」と「持続可能な社会」の実現を目指して設立された新興の企業や組織のことで、利益追求だけでなく、社会的なインパクトの最大化が目的です。
従来のスタートアップとの主な違いは、インパクトスタートアップが社会的な問題や課題に取り組むことに特化している点です。
日本政府もインパクトスタートアップに注目
インパクトスタートアップは、欧米諸国でも社会変革の担い手として注目されています。
日本でも岸田文雄首相の掲げる「新しい資本主義」の大きな柱として、「スタートアップ育成5か年計画」にて「社会的起業家(インパクトスタートアップ)のエコシステムの整備とインパクト投資の推進」に取り組むことが表明されました。
ベンチャー、ユニコーン企業との違い
インパクトスタートアップと混同されやすいものとして、ユニコーン企業やソーシャルベンチャー企業があります。
企業価値の最大化をめざすユニコーン企業
ユニコーンとは、創業してからの年数が10年以内と浅く、企業価値評価額が高い未上場のベンチャー企業を指します。ビジネスの成功によって市場評価を高め、投資家に還元することを目的としています。
テクノロジー関連企業に多く、Facebook社やTwitter社などもかつてはユニコーン企業とされていました。
社会課題に持続的に取り組むソーシャルベンチャー
一方で、ソーシャルベンチャー(社会起業)は、社会的課題の解決を目的とし、医療や福祉、農業、教育などさまざまな分野の課題を革新的なビジネスモデルによって解決をめざしています。
インパクトスタートアップとの違いは、個人や非営利団体も設立主体となることや、ビジネスの手法を用いながらも大規模な資金調達に拠らず、持続的に社会課題の解決をめざす点です。
インパクトスタートアップが注目される理由
政府による支援の動き
岸田首相は2022年を「スタートアップ創出元年」とし、政府による各種政策の推進に着手しました。
日本国内のスタートアップを増やすためのロードマップを示し、2027年までにスタートアップへの投資額を10倍以上にし、将来的に10万社の創出目標を示しました。
具体的には、3つの支援戦略を打ち出しました。
- スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築
- スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化
- オープンイノベーションの推進(大企業からスタートアップへの投資の推進)
グローバルでの急激な成長
世界において、評価額10億ドルを超えるユニコーンとなったインパクトスタートアップは2018年の時点では50社未満でしたが、わずか5年で179社まで拡大しました。
そのうちの40%は、2022年以降にユニコーンとなり、急成長していることが分かります。
インパクトスタートアップ協会について
一般社団法人インパクトスタートアップ協会は、「インパクトスタートアップエコシステムを構築し、持続可能な社会を実現すること」を目的とし、2022年10月に設立されました。
2023年には一般社団法人化され、正会員、賛同会員、有識者会員の3者で構成されて活動しています。
大手企業を含む60社近くが参加
正会員として参加する企業は、環境・エネルギーや医療・福祉、教育・子育てに食・農業、金融包摂、人的資本などの事業領域で、48社(23年6月現在)にのぼります。
比較的有名な企業だと、たとえば以下などが参加しています。
- READYFOR株式会社
- 株式会社ビビッドガーデン(オンライン直売所「食べチョク」を運営)
- ライフイズテック株式会社
- 自然電力株式会社
- 株式会社ヘラルボニー
- 五常・アンド・カンパニー株式会社
- 株式会社COTEN
賛同会員としては、野村ホールディングスやみずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ、丸井グループ(いずれもプラチナ会員)など大手企業も参加しています。
※参加企業の一覧はこちらから確認できます。
入会条件はインパクト創出への意志と実績
インパクトスタートアップの正会員には、さまざまな分野で社会課題の解決をめざす企業が加入しています。3つの加入条件を満たした企業のみが参加できる仕組みです。
- 創業の背景や企業の存在意義に「社会へのポジティブなインパクトを与えたい」という意志が強く組み込まれている
- 目標とするパフォーマンスに「インパクト」に関する指標がある・作ろうとしている
- インパクトの創出に関する活動を実際に行っている
詳細は、一般社団法人インパクトスタートアップ協会「入会のご案内・お申し込み」から確認できます。
日本のインパクトスタートアップ事例
インパクトスタートアップにおいて注目される企業には、どのような取り組み事例や成果があるのでしょうか。具体例をご紹介します。
事例1)READYFOR
取り組み
「誰もがやりたいことを実現できる世の中をつくる」をビジョンに2014年に創業。
個人や団体が実行者としてクラウドファンディングサイトを立ちあげ、支援者とマッチングする「クラウドファンディング事業」と、実行者と企業・行政などの資金供給者をマッチングする「寄付・補助金サポート事業」を提供しています。
成果
NPOや医療・研究、地域活性化など約2万件のクラウドファンディングプロジェクトを公開し、累計280億円の資金調達を実現(2022年7月時点)。寄付・補助金のインフラ構築によって、新たな金融の仕組みを開拓してきました。
事例2)へラルボニー
取り組み
「異彩を、放て。」をミッションに、知的障害のある作家とアートライセンス契約を結び、多様な事業を行っています。
主軸のひとつが、福祉をベースに新たな文化をつくりだすブランド『HERALBONY』の展開。アーティストが描くアート作品を製品化したファッションアイテムの販売や、ホテルや店舗の内装デザイン、街角でのポップアップまで幅広く手掛けています。
成果
知的障がいのある人たちをビジネスパートナーとして捉え、福祉領域の変革をめざす取り組みに多くの共感と資金が集まっています。2021年には、丸井グループやJR東日本スタートアップ株式会社など4社から資金を調達し、これからの事業展開が期待されます。
事例3)COTEN
取り組み
「メタ認知のきっかけを提供する」をミッションに掲げ、世界史データベースの研究開発とPodcast 「歴史を面白く学ぶコテンラジオ(COTEN RADIO)」の運営を行っています。
成果
この2つの事業を通して、生き方に正解がない現代において、自分を縛る「当たり前」から脱することや、目指したい生き方のヒントを得るきっかけづくりを目指しています。
そのユニークな取り組みは、TOKYO CREATIVIT AWARDS総務大臣賞/ACCグランプリを受賞。2020年には総再生回数100万回を越え、Japan Apple Podcast Rankingで総合1位を獲得するなど、注目されています。
インパクト投資の盛り上がりも、注目の背景に
このようにインパクトスタートアップが注目されるようになったのは、インパクト投資が盛んになり資金調達がしやすくなったことも背景にあります。
インパクト投資とは、金融的なリターンと社会的なインパクトの両方を追求する投資のことです。
インパクトスタートアップなどの社会的な課題や持続可能な開発目標に取り組む企業やプロジェクトに資金を提供し、社会的な変革を促進します。
財務的な成功だけでなく、社会的な価値創造を重視する新しい投資のアプローチと言えます。
企業も社会的インパクトを求める時代に
インパクトスタートアップのみならず、ここ数年は一般企業も社会的インパクトを追求する潮流が強まっています。
インパクト投資が活発になる中で、企業の事業活動そのものにも社会的インパクトが求められるようになっています。
企業の社会的価値を可視化し、投資家などのステークホルダーに示すために、社会的インパクト評価を取り入れる事例も広がっています。
インパクト投資とESG投資の特徴と違い
インパクト投資では、金融的なリターンと社会的なインパクトの両方を追求します。
社会的課題の解決や持続可能な開発目標(SDGs)の達成を目的として見据えるのが大きな特徴です。インパクト投資では、社会的な効果を測定し、投資先の社会的な変革や価値創造を追求します。
一方、ESG投資は環境、社会、ガバナンスの観点で企業や投資対象のパフォーマンスを評価します。
ESG投資の目的は、企業の持続可能性や社会的責任を考慮しながら投資を行うことです。そのため、ESG投資では、企業の環境貢献度、社会的な影響、ガバナンスの実践を評価し、投資判断に反映させるのが特徴です。
インパクトスタートアップの今後の展望と課題
社会の変化と技術の進歩が成長を後押しする
インパクトスタートアップは、社会的な課題への関心と投資意欲の高まりが追い風となり、成長市場としてさらに拡大すると見込まれています。
また、技術やデジタル化の発展で、より効果的な解決手法が生まれ、社会的インパクトの創出に貢献すると期待されています。
インパクト投資へ関心が高まり、資金の流入が増えると、インパクトスタートアップ支援や成長機会が広がる循環が生まれる可能性があります。
残された課題も
欧米で急成長するインパクトスタートアップですが、日本においてはインパクトスタートアップ領域での起業家・投資家が少ないことや、大きなインパクトを生み出した成功事例が限られていることが課題です。また、インパクトを評価・測定する手法の確立や、起業を志す若い世代の育成・支援の仕組みづくりも求められています。
インパクトスタートアップは国内外で注目を集めている一方で、持続的に事業を拡大するための基盤整備が必要です。
社会課題が複雑に絡み合うVUCA時代において、新しい視点で社会課題に取り組むインパクトスタートアップの可能性がこれまで以上に高まるといえるでしょう。