B Corp(B Corporation)とは?
B Corp(B Corporation)とは、アメリカの非営利団体「B Lab」による民間認証制度のことで、環境や社会に配慮した事業を行う企業に与えられます。
「B」は「Benefit(利益)」の意味で、社会や環境、従業員、顧客といったすべてのステークホルダーに対する利益を表しています。
制度が始まった2006年から2023年6月時点までに、B Corp認証を取得している企業は世界で6,713社にのぼり、うち日本の企業は26社です。
認証を取得する条件
認証を得るには、まずはB Labによるオンライン認証試験「B Impact Assessment(Bインパクト・アセスメント)」に回答し、200点中80点以上の取得が必要です。
さらに、関連資料を提出し、B-Labによるインタビューを経て認証の可否が審査されます。
B Corp認証を取得した、海外有名企業の事例
B Corp認証を取得した企業はどのような取り組みを行っているのでしょうか。
いずれもサステナビリティやエシカルといった切り口で紹介されることもあるグローバル企業ですが、どのような取り組みが評価されたかご紹介します。
ダノンジャパン
ダノンジャパンは、チルド乳製品、乳幼児や医療用の栄養食、水製品などを展開するダノングループの子会社です。
2020年、⽇本の⾷品業界ではじめてB Corp認証を取得しました。
「世界中のより多くの人々に、食を通じて健康をお届けする」というミッションのもと、食や健康をテーマに、環境や地域のための取り組みを展開しています。
食品廃棄への取り組み
フード・バンクNPOと協働し、食品廃棄による環境への負荷を軽減しています。
サーキュラー・エコノミー(循環型経済)の仕組みづくり
工場にリサイクル・センターをつくり、廃棄物のリサイクル買取による経費削減や、廃棄物を分別するプロセスにおける障害者支援施設との連携に取り組んでいます。
ダノン健康栄養財団を通じた社会貢献活動
食育に関する情報発信や、学術助成、専門家への科学情報の提供を行っています。
パタゴニア(Patagonia)
パタゴニアは、アウトドア製品を中心とするアパレルブランドとして知られていますが、環境や社会への取り組みも評価されています。
2012年にB Corp認証を取得したパタゴニアは、創業当初から売上や利益よりも地球環境を守ることを会社の存在意義として掲げ、現在まで貫いています。
1% for the Planet
年間の売上の1%を環境保護団体へ寄付しています。
パタゴニア以外の企業にも参加を呼びかけ、組織を越えて環境保護に参画できるユニークなプラットフォームです。
環境助成金プログラム
毎年、環境保護の活動に取り組む団体へ助成を行っています。
知名度が高い環境保全団体から、地域で活動する草の根のグループまで、多くの団体をサポートしています。
Allbirds
Allbirds(オールバーズ)は、サンフランシスコ発祥のシューズブランド。
「ビジネスの力で気候変動を逆転させる」というミッションを掲げ、環境負荷の低い天然素材を使ったシューズを開発・販売しています。
さらに、一部の素材をオープンソースで公開するなど、アパレル業界の気候変動対策をリードしています。
環境への配慮と、履き心地の追求
石油由来の合成素材を天然素材に置き換えることをめざすAllbird。
ユーカリやサトウキビ、ウールなどを使ったシューズは顧客からの評価も高く、米TIME誌に「世界一快適なシューズ」と評価されました。
カーボンフットプリントをほぼ「ゼロ」に
2030年までに全製品のカーボンフットプリントをほぼ「ゼロ」にすることをめざし、工場からオフィス照明に至るまで、すべてのカーボンフットプリント排出量を計測しています。
Allbirdsが所有・運営する施設では、100%再生成可能エネルギーを使用していることも注目されています。
ステークホルダーにとっての意味やメリット
投資家の立場から
近年、投資家の間では「環境や社会に配慮した企業かどうか」が投資判断の軸のひとつになりつつあります。
B Corpは、5つの視点(ガバナンス・従業員・コミュニティ・環境・顧客)の基準を満たさなければ取得できないため、投資家にとって有益な判断材料になります。
インパクト投資との相乗効果も
金銭的なリターンだけでなく環境的・社会的課題を解決するための投資「インパクト投資」が注目されるなかで、B Corp認証は環境や社会へポジティブな影響を及ぼす企業の可視化も後押しすると考えられます。
社員や転職検討者の立場から
就職先や転職先を選ぶ際に、「社会的意義のある事業をしている会社や団体を選びたい」というニーズは高まっています。
特に、ミレニアム世代・Z世代においてはその傾向が強いとされています。
B-Corp認証の取得は、働く社員にとってはエンゲージメント向上に、転職希望者にとっては環境・社会に配慮した企業を見極めるヒントとなります。
顧客の立場から
商品やサービスを選ぶ際に、環境負荷や社会貢献を意識する消費者が増えています。
社会課題に関心がある顧客にとって、B Corpを取得した企業の商品やサービスは、購買を検討する際の判断材料となるでしょう。
認証の流れと、取得後の日本企業
B Corp認証の取得までには複数のプロセスがあります。
- B Impact Assessment(Bインパクト・アセスメント)に登録する
- アセスメントの約200項目に回答する
- 80点以上を取得した後、項目に関連するディスクロージャー資料を提出する
- B-Labアナリストによるインタビューを受ける
B Corpに認証された後は、3年毎の更新と年会費の納入が必要です。
更新の際は、B Impact Assessmentを受けて評価を更新するとともに、自社の取り組みについてまとめた「B Impact Report(Bインパクト・レポート)」の提出を求められます。
詳しいステップはこちらが参考になります。
クラダシ
食品ロス削減に取り組むクラダシは、2023年に東京証券取引所グロース市場に上場。B Corpとしては、日本で初めての上場事例になりました。
初値は公開価格を54%上回る800円となり、市場の期待をうかがわせましたが、米国では、B Corp取得後に合理化を求める株主の圧力で認証を手放した企業もあります。
今後、クラダシが株主の利益と社会の利益の双方を追求できるか注目されています。
ライフイズテック
「中高生ひとり一人の可能性を一人でも多く、最大限伸ばす」をミッションに掲げ、中学・高校生向けIT・プログラミング教育サービスなどを提供しています。
B Corp認証に携わった社員の方は、取得のためのプロセスを通して、「社会的なインパクトが明確に定義され、測られ、経営陣から広く社会にシェアされていることを、客観的な視点で語ることができるようになった」と振り返っています。
石井造園
横浜に根ざして地域の住民とつながる様々な活動に力を入れています。
従業員十数名の造園会社でありながら、B Impact Assesmentでは106.5点とパタゴニアの初回評価を上回った石井造園。
100%のカーボンオフセットを実現したり、自社の強みを生かした壁面緑化に取り組んでいます。B Corp取得によって、海外での評価が高まったと語っています。
日本におけるB Corp取得企業の一覧はこちら
B Corpのこれからの展望と課題
BCorpの可能性
若い世代を中心にSDGsやサステナビリティへの意識が高まるなかで、近い将来「B Corpの企業だから商品を買う、就職する」といった選択肢が生まれるかもしれません。
また、環境対策や社会課題の解決が企業に求められる時代において、公益を追求するB Corpは、社会にコミットする企業を生み出す可能性があります。
残された課題も
一方で、B Corpの認知度向上や、認証の取得や維持にかかる費用や時間などのコスト、取得した企業を評価する市場の成熟度など、課題も残されています。
短期的な営利だけでなく、環境や社会へ働きかけ、コミュニティや従業員の幸せまで追求するB Corpは、社会を変える仕組みとなるのか、今後の広がりが注目されます。