学生時代から「NPOで働きたかった」が、ビジネススキルを身につけるため就職
ー 南谷さんが、NPOに興味を抱くようになったきっかけを教えてください。
小学生の頃に、「貧富の格差」を目にしたのがきっかけかもしれません。
最新のゲーム機を買ってもらえる友達がいれば、なかには「夜逃げ」同然で引っ越してしまった同級生もいたんです。
「どうして同じ子どもなのに、貧しいおうちとお金持ちとで違ってしまうのだろう?」と、子どもながら世の中の不条理を実感しました。
「機会の不平等は、どうすればなくせるのか?」と考えるようになって、そうしたら国際的な格差に目がいくようになり、大学では上京して開発学や国際協力論を専攻。
地域研究のゼミでアフリカを訪れたり、国際NGOで翻訳のボランティアをしたりと、「国際協力」に携わるようになった学生時代でした。
ー 新卒のときは、どのような就職活動を?
「国際協力の仕事をしたい!」とも考えていたのですが、当時はいきなりNPOに就職する覚悟が無く、同級生たちと同じように大手企業中心の就職活動をしました。
グローバルなメーカーということもあって、自動車部品で有名なデンソーに。
本社の事業企画の部署に配属され、予実管理や事業計画策定の取りまとめなど担当させてもらいました。
3年半デンソーで働いてから、思い切って青年海外協力隊に応募しました。
アフリカのカメルーンに2年間いたのですが、私のミッションは、シアバターの製造や加工をしている団体の経営支援。
メーカーで学んだ、在庫管理や作業工程の改善、さらには収支管理や販路拡大にも取り組ませてもらい、「貢献できている」という実感も抱けました。
ー 帰国後はどんなキャリアを選びましたか?
「社会人の基礎も身につけたし、そろそろNPOに行こう」と就職活動をしたんです。
でも内定は、得られませんでした・・
面接を受けたあるNPOの代表の方に「君はケイパビリティ(能力)が足りないから、ビジネスセクターで仕事をした方がよい」と言われ、ガツンと衝撃を受けました。
「もう少し修行をしよう」「ビジネススキルを身につけるためには?」と行き着いたのが、リクルート。
リクルートは収益力の高さが注目されますが、「不の解消」と言ってマーケットにある課題に向き合う、と掲げているのも魅力でした。
「ホットペッパー」や「じゃらん」などを手がける、株式会社リクルートライフスタイル(当時)に転職しました。
2回目のNPO転職活動へ。スピード感があり、企業出身者の多い団体を探した
ーリクルートではどんな仕事を?
事業開発の仕事を、3年半させてもらいました。
「ホットペッパービューティ」を担当したのですが、まずは財務など収支マネジメントや中長期戦略の策定。
途中から、新商品開発のためのマーケットリサーチからリリース、そこから新規のクライアントを獲得するためのマーケティングまで、0から1を立ち上げるひととおりの流れを経験させてもらいました。
売上も伸びていき、私のなかでは「やり切った」という感覚になりました。
リクルートは会社としても「一生働く」というスタンスでもないし、2020年1月頃に転職活動を始めました。
ー転職先はどのように探されましたか?
「今度こそは!」とNPOひとすじで探していたので、一般的な求人サイトや転職サイト、エージェントは利用しませんでした。
「DRIVEキャリア」というソーシャルセクターの求人を集めたサイトで、NPOで働く人の声や条件を調べたり。
DODAが開いていた、ソーシャルセクターのキャリアイベントにも参加しました。
他にも、寄付したことがある団体やSNSでフォローしている団体の、採用サイトを調べたりも。
ー 転職先選びの軸があれば、教えてください。
元々の想いである「格差の是正」に結びつく事業をしている団体、という軸が1つ目。
2つ目が、民間企業での企画や事業開発の経験がダイレクトに活きる職種を探しました。
3つ目に、スピード感をもってロジカルな意思決定ができるところで働きたいので、民間企業の経験者が多い組織を探しました。
ピンポイントで当てはまる求人はなかなか多くはなかったのですが、4,5団体の選考を受けていきました。
ー 転職活動でNPOならではなど、困ったことはありましたか?
ほとんどなかったのですが1点だけ、条件を明確に提示していない団体もあって、その時は戸惑いました。
募集要項では「団体規定による」としか書いていないことも少なくなくて・・
NPOのなかでは高い給与水準が載っていた求人も、面接を進んでいくなかで「その募集は、実はマネージャー職なんです」「一般職からスタートなので、次の査定以降になってしまうのですが、大丈夫ですか?」と載っていたのより低い金額を提示され、もやっとしたこともありました。
企業だと書面で条件通知書を提示しますし、エージェントを通すと聞きにくいところも質問してくれるので、NPOでも条件を明確に開示されるところが増えると良いなと思います。
ーそんななか、かものはしプロジェクトに入職を決めた理由は?
かものはしプロジェクトは、インドやカンボジアなど途上国で「子どもが売られない世界」を目指し活動してきましたが、学生時代から知っていたんです。
共同創業者の村田早耶香が日経の「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」を受賞したのをメディアで見て、すごいなぁと。
その後、かものはしのイベントに何度か参加し、寄付という形で関わらせいていただいていました。。「きちんとしている誠実なNPO」という印象でした。
実は青年海外協力隊で活動するうちに、国際協力だけではなく日本国内の課題にも関心を持つようになったんです。
ちょうどかものはしが日本の子ども支援の事業を始めるタイミングで、私自身の関心とも重なりました。
日本事務局は約20人と少人数で意志決定が早そうであること、財務基盤が安定していること、働く人が誠実に感じられたことも決め手でした。
他にも内定をいただいた団体もありましたが、最終的にかものはしを選びました。
非営利セクターへの転職は、“片道切符”ではないはず
ー仕事を始められてみていかがでしたか?現在担当している仕事とともに教えてください。
2021年初めに入社した時は、経営企画管理部に配属され、人事労務の労務規程の見直しを担当しました。
管理系の事務作業で、定時にも仕事を終えられ「拍子抜け」の感覚もありましたが、財務もサポート担当から主担当と任される幅が広がるにつれ、そんな余裕もなくなっていきましたが・・・
3ヶ月後から、「ファンドレイジング」(寄付などでの資金調達)も兼務となり、デジタルマーケティングで寄付を獲得する仕事にも取り組んでいます。
今は財務とデジタルマーケで50%ずつでしょうか。負荷は増えましたが、内向きの業務よりは外に向けて何かをつくっていく仕事の方が自分にフィットしているようです
昔から「非営利セクターで働く」が夢だったので、興味のある領域での1つ1つの仕事が楽しいんです。
任せてもらっている役割は、企業の時と重なるところもありますが、「その仕事の先にあるもの」が違うし、やりたいと思っていたことを形にしていける。
かものはしプロジェクトでは、たとえば性暴力や虐待といった「世の中の不条理」を、少しでもなくそうと活動しています。
私のスキルや経験を活かして、子どもや女性など社会的に弱い立場に置かれた方々の力になれる。
やりがいは想像以上でした。
ー実際に働いてみて、何かギャップはありましたか?
スピード感が前職までと比べるとゆっくりしているなと感じました。
企業だと、マネジメント層が意思決定したらメンバー層は粛々と実行していくことも多いですが、NPOだと想いを持って働いている方がより多い分、一人ひとりの「気持ち」を大事にする。
合意形成に時間をかけるのは、団体の文化なのか業界の習慣なのかまだ分かっていませんが。
また財務で収支計画を立てたときに、「NPOは、売上の成長を前提としていない」とフィードバックをもらい、その考え方にはまだどうしても慣れられずにいます(苦笑)。
事業会社は売上それ自体をゴールとして、右肩上がりの成長を目指していくのが当たり前という感覚がありました。
一方、NPOでは「収入や利益は、事業を実現するための手段である」「仮に赤字でも、事業が継続できればよい」という考え方もあり、良い意味で新鮮で・・
ー勤務時間や給与、ワークライフバランスなどはいかがでしょう?
私は今もなんとか、定時で仕事を終われています。
子育てをしている職員が多いためか、ワークライフバランスは団体としても重視しているようです。
給与については、収入が減るのは覚悟していました。
それでも生活できる給与水準であること、その分を補うため副業が許可されている団体を選びました。
副業はまだ取り組めていませんが、新しく携わることになったファンドレイジングを学ぼうと「ファンドレイジング・スクール」にも通い、仕事以外の勉強時間も取れていて充実はしています。
ーNPO転職を考えられている方に、最後にメッセージをお願いします。
NPOへの転職は「片道切符」の印象があると思うんです。企業には、もう戻れないという・・
でも、1つのNPOで働き続ける人は稀ですし、民間企業に戻る人もいれば、独立する人もいる。
この業界に来てから私も知りましたが、そんなロールモデルがもっと知られ、NPOで働いた先のキャリアを描けるようになると良いなと思います。
私たちの世代は、学生時代に「社会起業家ブーム」が起こりました。
「NPOで働く」に憧れる人も周りには少なくなかったですが、今の若者世代にとってNPOは今ひとつ「イケてない」というイメージかもしれません。
同じ社会課題に取り組むにしても「スタートアップの方がインパクトも大きいし、経済的な豊かさも得られる」と認識されていないかなと。
もっともっと優秀な人材がこちら側に来てほしいし、そのためには待遇面の改善や民間企業との“分断感”の解消など、課題も少なくないはずです。
私も何かできることをしていけたら良いなと考えています。