マンスリーサポーター約17,500人までの成長をサポート

2025
03
24
認定NPO法人かものはしプロジェクト

2002年、こどもがだまされて売られてしまう現実を「なんとかしたい」と、当時大学生だった共同創業者3人がカンボジアで活動を始めた。2012年にはインドでもこどもの人身売買を防ぐ活動を、2019年には日本で児童虐待への取り組みを開始。「誰もが尊厳を大切にされる世界」を目指している。

海外のこどもの人身売買や日本の児童虐待などを防ぐため活動する、かものはしプロジェクト。マンスリーサポーターと呼ばれる個人からの継続的な寄付を中心に、財務面でも成長を遂げてきました。2022年度には外部環境の変化などで減収を経験したものの、既存支援者のリテンションや新規層向けの新たな訴求メッセージの確立などによって、再び成長軌道に戻り約5億円の収入を実現しました。当社では、マーケティングを中心にファンドレイジングの戦略策定から実行まで伴走。この記事では、長期的な成長と一時的な停滞、回復に至るまでの過程をご覧ください。

2010年代からマンスリーサポーター収入が成長

かものはしプロジェクトの収入規模は、2014年度からの10年間で約2.7倍に成長した。

2002年の創業当初は、事業収入をメインとする“事業型”を目指したが、途中で“寄付型”へ転換。
なかでも「サポーター会員」(=マンスリーサポーター)といって月1,000円からの継続的な寄付を得ることに注力した。

マンスリーサポーターは、補助金・助成金や法人寄付などの他の資金調達手法と比較すると、翌年度以降も安定的に予測できる。
一定規模以上を確立すれば、使途の自由度が高い場合が多いので、固定費など長期視点で投資できる。

2016年までは、「活動報告会」などで一人ひとりと対面でお話しする形式をとり、サポーター会員数を約3,000人まで増やした。
しかし「代表や団体スタッフの周辺から、ご支援の輪を広げていく」「お一人ひとりと話して、活動の熱を伝える」といった手法だけでは、支援者数の伸びは頭打ちを迎えやすい。


そこで成長の壁を乗り越えるため、当社も支援をしながらデジタルマーケティングに力を入れていくことに。
GoogleやMeta(当時Facebook)、Yahoo!などプラットフォームを経由して、広く市民の方々に社会課題を知ってもらい、少額からでも継続的に支援いただくことを目指した。

デジタルから新規でサポーター会員にお申し込みいただく流れ

コロナ禍前後に世の中のデジタル化が進んだこともあって、成長が加速した。
2020年にはサポーター会員数が、約15,000人へと増加。

継続的な収入である「会費」が約3.1億円(2020年度)と、団体収入の8割を賄える堅牢な財務基盤を築くことができた。

WEBマーケの効率が悪化して、新規会員が減少

しかし、コロナ禍が落ち着いてきた頃から、風向きが変わっていった。
2021年度の後半から、順調だった新規会員の獲得が鈍化したのだ。

2019-20年度は毎月300-400人程度のサポーター会員が入会くださっていたが、2022年に入ると毎月100人程度まで落ち込んだ。

背景には、コロナ禍が落ち着いてリアル回帰が進んだこともある。
2010年代後半の成長は「外部要因の大きな波に乗れたのが要因」、と実は状況が悪化する前にも振り返り、次の変化に備えようとしていた。
しかし、その前に潮目は変わっていき、たとえばGoogleやMetaなどプラットフォームへのデータ規制によってデジタル広告には逆風が吹き始めた。

ちょうどこの頃、不正アクセス防止のためWEBセキュリティを強化したのも、ネガティブに働いた。
クレジットカード決済の認証などでリジェクトされる割合が増え、WEBフォームからのコンバージョン率(訪問者が申込に至る確率)が低下したのだ。

2020年度から3年間の新規会員数の推移

さらに、2022年2月に起こったウクライナ危機に伴い、国際協力の分野では多額の緊急支援の寄付が集まった。
対照的に、ウクライナや難民には関わりのない活動をしている団体への寄付は、急減した。

新規会員の急減を受けて、さまざまな施策を試した。しかし8割は大きな改善効果がなかった。

「動画広告のオープニングやSNS広告の見出しで、さまざまなパターンを作る」
「LINE公式アカウントへの友だち登録から、メッセージを配信する」
「LPのファーストビューを、スタッフの思いが伝わる写真に変更する」

失敗のなかでもトライ&エラーを続けることで、ポジティブに作用する施策も一部見つかった。
なかでも貢献したのが、寄付申込のWEBフォームをチャットボットに変更したことだった。

寄付申込のWEBフォームを、チャットボットに変更

通常タイプのフォームと比べて、コンバージョン率が1.4倍にアップしたのだ。
このようにうまくいった一部の施策を掛け合わせ、半年以上の苦しい期間を経て、獲得効率が改善した。

外部環境の変化に合わせ、トライ&エラーしていくこと。
PDCAサイクルを回して、失敗から学び、次に活かすことの大切さを改めて学んだ。

クレカ決済に起因する、既存会員の離脱が増加

続いて、既存サポーター会員さまの継続についても、大きな課題が発生した。

クレジットカードでの自動引落で寄付くださるサポーター会員さまについては、仮にカードの有効期限切れでも「洗い替え」といった仕組みによって、寄付が途切れずに継続的に決済をできるような仕組みが用意されている。
しかし、国際ブランドなどによる基準の厳格化により、寄付のお申し込み時だけでなく翌月以降の毎回の決済で「オーソリ」といって、カードで決済できるかを発行会社に確認するため信用情報を取得する必要が出てきた。

クレジットカード決済エラーによる離脱を防ぐ!「支援し続けたい」に寄り添う、オペレーションの仕組み

このような決済の方法の変更によって、移行時にカード決済をできなくなった方が約2,000人も発生した。
何度か更新のお願いのご連絡を試みたものの、最終的には決済手続きに至らなかった既存会員さまから、700人以上の退会者が発生した。

そこで、決済エラーが発生したサポーター会員さまに、更新をお願いするご連絡のフローを強化。
最大14回のコミュニケーションでのフォロー体制を確立した。

たとえば、12月20日にカードの有効期限が切れる方については、前月より事前にメールや郵送等でカード更新のお知らせをする。
これによって、有効期限が切れる前に約45%の会員さまが切り替えてくださる。

クレジットカードの決済エラー率の推移

続いて、1月10日の請求タイミングより、有効期限切れやその他の理由で決済がNGの寄付者さまが発生する。
毎月のメールや2回の手紙で、それまでのご支援への感謝と今後の継続のお願い、手続き方法などをご連絡した。
また電話番号へのSMS(ショートメッセージサービス)も活用して、決済が成功しなかった旨をご連絡した。

このようにして3-4ヶ月間の集中したコミュニケーションのフローを組み、また決済エラーから3ヶ月後にも更新くださらない方は、退会とするフローに。

毎月平均約220名の決済エラーが発生するものの、翌月以降の「再課金」によってご支援が自動的に再開する寄付者さまも。
さらにメールや手紙、SMSなどのコミュニケーションフローによって、3ヶ月後には約86%が更新してご支援を再開(14%が退会)
してくださるようになった。

外部環境の変化により、退会増加の懸念が増したなかでも、ご支援の意志を持った方に継続していただける仕組みをつくることができた。

日本事業の開始と訴求メッセージの開発

このように新規獲得・既存リテンションともに、成功パターンを取り戻せたが、今度は別の課題も訪れた。
新しい寄付募集の訴求を、ゼロから作らなければならなくなったのだ。

創業から国際協力の事業を主体としてきたが、日本の児童虐待問題への取り組みが2019年にスタートした。
活動の広がりにともない、2024年にはファンドレイジングを本格的に始めていくことになった。

国内の事業は、孤立しがちな妊産婦を支援する「予防」と、児童養護施設などを出た若者の巣立ちを支援する「アフターケア」の2つから構成される。

一般的に、新規でドナーを募るにあたっては、すべての活動を伝えても理解されにくい。
どの社会課題や活動分野にフォーカスを当てるのが適切か?から議論した。

そこで、テストマーケ初期には、2パターンの訴求軸をテスト

  • A:児童虐待の課題を押し出し、問題解決を訴える(事業全般)
  • B:児童養護施設を退所したお子さんのサポート(アフターケア)
  • C:妊産婦のサポートにより、生まれてくる赤ちゃんを助ける(予防)

と大きく3つのパターンが考えられたうち、ニュース報道などで課題を感じている方が多数おられると想定されるAと、「児童養護施設」という言葉から支援の必要性を想像しやすいBの2パターンを初期には選んだ。

それぞれ異なるクリエイティブを作って、デジタル広告でテストマーケティングをしたところ、大きく異なる結果が出た。

社会課題の訴求ごとにテストマーケティング

費用対効果では、児童養護施設を訴求したパターン(アフターケア)の方が、4.5倍も良かったのだ。
その後は、このアフターケアのパターンを基軸に据え、コピーや写真などを変更する「改善」のアプローチをとっている。

このようなプロセスを“訴求開発”と呼んでいるが、0→1の立ち上げゆえ、通常の運用・改善フェーズとは考え方が異なる。

  • How?(どう見せるか?)ではなく、What?(何を伝えるか?)から考える
  • 1つのメッセージで決めうちせず、複数の仮説をテストする
  • 平均値を高める必要はなく、1つでも”当たり”を見つけるのが大事

再現性をもった計画を立てられないなか、予測不能な環境を手探りで進んでいく。
当然失敗も多いし、団体内でもエビデンスをもとに調整できない、もどかしさもある。

そんななかでテストマーケティングでは、リスクを一定範囲内で区切りつつも、“早く上手に失敗”する力が求められる。
「失敗おめでとう」と時には励まし合いながら、ポジティブなマインドを保ち、トライアンドエラーを続け、正解を見つけていくのだ。

約1年後には、新規で寄付を始めてくださる方々の70%以上は、日本事業での活動をきっかけにしてくださるまで伸びていた。
未来が見えない不安や、失敗の苦しさを乗り越え、新しい成功パターンを作ることができた。

約1.8万人のサポーター会員とともに目指すこと

このように再びファンドレイジングを成長軌道に乗せることができたが、まだまだ課題も多い。

かものはしプロジェクトの収入の70%以上を占めるのは、サポーター会員からいただく「会費」。
マンスリーサポーターモデルは、高いLTV(=ライフタイムバリュー)で安定的に収入が継続する“堅牢な”資金調達の方法ではある。
一方、今回のようにリスクが顕在化した時には、“脆弱性”を顕にしてしまうこともある。

環境変化に伴う不確実性のなか、1つのプログラムに依存せず、資金調達の方法を多様化する必要がある。
かといって、全く新しい分野で立ち上げるのも困難が伴う。

そこで、マンスリーサポーターは今後ももちろん単体で収入源として成長させつつ、ドナーベースを広げていく。
そのうえで、プロモーションや見込みドナーの発掘などの観点から、遺贈・相続財産の寄付や、法人寄付など他プログラムにも波及効果を及ぼすような方向性を模索している。

資金調達の内訳とマンスリーサポーター数の推移

かものはしプロジェクトは、カンボジアでの創業から児童買春の減少まで、市民の力によって社会を変えてきた歴史をもつ。
社会の構成員である市民一人ひとりの小さなアクションにより、尊厳が大切にされる社会を目指している。

そのために、寄付はもちろん、ボランティアや発信・拡散、イベント参加、企業と連携しての従業員参画など働きかけていくことで、ソーシャルグッドな行動を広めていくことも、ミッションとして担う。
約1.8万人のサポーター会員お一人ひとりとともに、“「わたし」の力を信じて小さなアクションを起こす人を増やしていく”ことを目指している。

2016年頃、新規サポーター会員獲得のためのデジタルマーケティングから始まった当社の支援も、以下のような範囲にまで広がってきた。

  • 既存支援者とのコミュニケーションの設計
  • 寄付者インサイトの発見と、訴求メッセージの開発
  • KPIの設定や実績のモニタリング

資金調達プログラムの多様化やソーシャルアクションの促進など、これからもチャレンジングなテーマが待ち受けるなか、団体の強みを活かしてより前進していけるよう、当社も貢献していきたい。

ご担当者様の声

認定NPO法人かものはしプロジェクト
ソーシャル コミュニケーション事業部 シニアスタッフ
早瀬真理絵さま

数年にわたりご支援いただいており、弊団体の資金調達に大きくご貢献いただいています。特にありがたく思っているのは、常に「本気で」「一緒に」考えてくださること、また忖度せず時には厳しいご指摘をくださることです。団体内で、事業や管理・オペレーション寄りの内側目線になりがちなとき、「ご寄付者さまの目線に、立てていますか?」と大事な問いかけをいただいています。またどうしても日々のタスクに追われ、施策を完了しても“やりっぱなし”になってしまうところ、「効果検証」を重視し、必要に応じて軌道修正を行うという姿勢にも助けられています。これまでデジタルマーケの良い波の時も悪い波の時も伴走いただいてきましたが、今後も色んな変化や波を一緒に乗り越え、資金調達を通じて社会をともに変えていけたら嬉しいです。

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