京都大学iPS細胞研究所(CiRA)から一部機能を分離する形で2019年9月に設立した(2020年4月に内閣府からの公益認定)。製造に多大なコストと技術が必要となるiPS細胞を、非営利機関には無償で、営利機関には低価格で提供。iPS細胞研究の実用化を目指し、iPS細胞の製造や品質評価などの技術を産業界へと「橋渡し」する機能を担う。
iPS細胞研究の実用化を目指し、2020年に公益認定を受け活動を開始した、京都大学iPS細胞研究財団。約2.9万人(24年8月時点)のマンスリーサポーターからの毎月のご寄付や、法人や遺贈はじめ都度でのご支援が積み重なり、23年度の寄付収入は約28.8億円に達しました。当社では、デジタルマーケティングの立ち上げやファンドレイジング計画の策定を支援。資金調達開始時の状況や構想、成長過程で起こった課題と乗り越えた方法など、ご覧ください。
「iPS細胞研究の実用化に向け、いよいよ新しい組織がスタートする。新しい治療法を待つ患者さんのため、社会の期待に応えるため、安定的な資金を寄付で募りたい。」
公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団(以後「iPS財団」)のファンドレイジングについて、当社が相談を受けたのは、2019年の秋だった。
iPS細胞研究の実用化に向けた細胞製造の機能を、大学からスピンアウトして公益財団法人として設立する。
そこで、「安定的に活動を続けられる目処を3年以内に立てたい」という相談だった。
新たな団体であるiPS財団のファンドレイジングでは、まずは支援者層を広げる必要がある。
いくつかの選択肢をもとに議論を重ねるなか、「デジタルマーケティングを活用して、マンスリーサポーターを募ることにチャレンジしよう」と決まった。
マンスリーサポーターとは、1,000円からなど毎月の定期的な寄付で、非営利団体を支援する仕組みのこと。
行政からの補助金や財団からの助成金、大企業からの高額な寄付だと1つの資金提供者に依存しがちになるが、小口で分散するので安定的な収入ともなる。
非営利団体では、ユニセフや国境なき医師団など大規模な国際NGOをはじめ多くの団体が、主要なプログラムの1つとしている。
平均単価を月2,000円前後とおくと1人あたりの年間寄付額は24,000円、例えば、年間6億円の安定的な収入を目指すならば、約25,000人にご支援をいただくこととなる。
目標達成までの道筋について、こう目算を立てた。
しかし、科学研究やアカデミックな分野、医療機関や大学などiPS財団と近しい領域では取り組まれた事例が当時はほとんど見られなかった。
また2020年はコロナ禍にも突入、イベント開催や街頭募金などリアルで呼びかけ、反応を確かめるのは難しかった。
先行きが見えづらい時勢でもあったが、デジタル上でのテストマーケティングは計画どおり実施することに。
当社も、メッセージやクリエイティブの企画制作、あるいはKPI・目標の設定やデータ計測など、0→1の立ち上げ準備にハンズオンで伴走した。
先行調査では、国際NGOや国内NPOなどマンスリーサポーター募集で先行する非営利団体がとる、オーソドックスな方法を踏襲した。
iPS財団が取り組む社会課題や具体的な活動内容や資金の使途、寄付の方法やQ&Aなどを1枚のページで語ったランディングページ(LP)を用意。
GoogleやMeta(当時Facebook)、Yahoo!などのプラットフォームから、関心のある方々に遷移してもらう方法をとった。
特に、広告の画像や動画などでは、「難病で苦しむ方々を減らしたい」「治せない病気をなくしたい」といった山中理事長の想いを伝えるようにした。
そして寄付に関心をもった人は、その後にフォームからクレジットカード決済で申込をしてもらうという流れとなる。
先行調査では、当初計画を大幅に上回るKPIが記録された。
当社でも過去に経験したことのないくらい、驚くほど良い水準だった。
これまで長い間、iPS細胞の研究や実用化に向けた取り組みが、実績を積み重ね社会から信頼を得てきたこと。
そして山中理事長が国民的な信頼を得られていることを、実感する結果だった。
「iPS細胞研究の実用化を待ち望んでいる方、共感して応援くださる方は、社会に多くいらっしゃるかもしれない。」
先行調査で手応えをつかんだ私たちは、デジタルでの取り組みをより強化していくことにした。
取り組みを開始してから約1年後には、寄付者様の数が大きく伸びた。
2021年度の途中には、累計寄付者数も10,000人に到達。25,000人に到達する道筋も見えてきた。
しかしこの急成長は、小さくない反動をもたらしていた。
マーケティング施策がヒットしてトップラインが伸びると、カスタマーサポートやバックオフィスに負荷がかかり、組織のキャパシティが市場のニーズに追いつくまで歪みが生じる。
成長企業で起こりがちな現象は、非営利団体でも同じように発生する。
先行して成長していた他の団体でも経験していたように、まずは寄付者様のお申込やお問合せに対応するオペレーション機能に困難が訪れた。
WEBサイトなどから新しく寄付のお申込をいただくと、基幹データベースにその情報が取り込まれる。
その個人情報にもとづき、メールなどで受け取りとお礼の連絡をしたうえで、寄付金控除の証明となる領収書(受領書)を発行するのが、基本的な流れだ。
寄付者様の数が増えると、「クレジットカードを変更したい」「引っ越したので、新しい住所に領収書を送ってほしい」といった問合せも寄せられ、抜け漏れのない対応が求められる。
寄付金受け入れのオペレーションは、商品の発送やサービスの提供を伴わないのでシンプルではあるし、オンラインで完結する工程は自動化をしやすい。
一方、銀行振込や印刷・郵送などオフラインの工程では、手作業がどうしても発生する。
問合せの内容も1つ1つシンプルなことが多いが、税務や経理など専門的な知識が必要になる案件もあれば、立ち上げ当初なのでルールが整備できていないところもある。
件数が増えると、回答漏れがないようにオペレーションを正確に回す難易度も上がる。
そこで、オペレーションの仕組み化を急いだ。
まずは基幹データベースであったSalesforceを活用して業務フローを整備した。
といった基礎的なところから整備していった。
さらに、毎月寄付の金額変更や解約、住所やメールアドレスの変更、クレジットカードの再登録など典型的な問合せについては、専用のフォームを整備。
ご自身で登録してもらうようにすることで、寄付者様の利便性の向上をはかった。
アウトソース先であるコンタクトセンターの協力や、採用などによる人員の増強もあって、少しずつではあったが、オペレーションが無理なく回るようになってきた。
続いて、順調に進んでいた新規の寄付者様の増加にも陰りがみられ始めた。
前述のとおり、最も寄付者様が増えたのが、山中理事長がご自身の思いとともに支援を訴える動画やバナーだった。
しかし、広報上のリスクなどを鑑みて、このような広告クリエイティブの出稿の割合を減らしていくことに。
その結果、KPIが悪化した。
そこで原点に立ち返り、寄付してくださる方々は「なぜご支援をくださっているのか?」「どんな思いを持ってらっしゃるのか?」に目を向け、応援メッセージに目を通したり、イベントなどであるいは個別にお話しを伺っていった。
その中でわかってきたのが、患者さんやご家族、あるいは医療関係者など新しい治療法を待ち望んでいる方々にとっては、iPS細胞研究の実用化は大きな希望であるということ。
そこで、外部専門家の協力も借りながら、広告やLP(ランディングページ)などのクリエイティブをつくっていった。
「A/Bテスト」といって、複数のパターンを同時に掲示して、どちらの方がより寄付につながっているか?を定量的に検証していく手法もとった。
たとえばLPのファーストビューで、ご支援者の想いをより反映したものに変更したところ、コンバージョン率(=ページに遷移してから寄付の申し込みに至るまでの確率)が、約1.9倍に高まった。
デジタルマーケティングで成功パターンを確立できたと思っても、2-3年経つと、市場ニーズの変化や類似した他団体のプロモーション強化、自団体のレギュレーション厳格化といった要因によって、KPIがだんだんと悪化しやすい。
寄付者様の願いに思いを馳せつつ地道なテスト・検証改善を重ねていくことで、KPIはだんだんと上向いていった。
このように寄付者様の想いに継続的に応え、検証や改善を継続的に回していくには、組織としての基盤を整えることが求められる。
立ち上げ当初は社会連携室の正規職員は2人と少数精鋭だったが、安定的な成果を挙げていくことを目指し、採用や育成に力を注いだ。
しかし京都という地域特性もあり、ファンドレイザーの経験者を採用していくのは難しい。
そこで、民間企業などからの転職者を中心に、幅広い業界から採用した。
職種としては営業や広報、企画など、コミュニケーションに携わる業務経験の豊富な方々が中心に入職して、これまでの経験やスキルを活かせるような業務も担当した。
現在は担当範囲を定めつつ、兼務など交えて分業をしすぎず、業務を回していく体制をとっている。
一人の突出した人材に頼らない、組織としての体制を築くことができた。
このような経過を乗り越え、マンスリーサポーターは増加していった。
2023年半ばには、目標としていた25,000人という継続寄付者数(アクティブ)に到達。
翌年度以降も「安定的な収入の確保」という目標も達成できた。
新規での寄付呼びかけはマンスリーサポーター向けのデジタルマーケティングが大半だったが、それをご覧になった方々からの都度でのご寄付も連動して増える結果となった。
高額な寄付をいただいた方へのヒアリングでも、「デジタル広告がきっかけ」という方も一定割合でいらっしゃり、他プログラムとの相乗効果も発生。
寄付収入は、全体で約28.8億円(2023年度)に達した。
※寄付額の正確な金額は、iPS財団公式WEBサイトで公開されている「活動レポート」Vol.2,4, 6, 8をご参照ください。
毎月寄付者2.5万人、継続寄付額6億円の目標を両方達成。
2020年代半ばから後半にかけて、iPS細胞研究の実用化が進んでいく計画だ。
事業面の変化とともに、ファンドレイジングも変わっていくことが求められる。
iPS細胞研究にもとづいた治療によって、助かる人が増える。
すなわち受益者数が増えると、「iPS」に好意を持つ人も増える。
社会的評価の高まりとともに、新規の寄付者様にも良い影響が予想される。
既存の寄付者様からご支援いただいた成果を、本格的に社会へ還元できるようになる。
ニュースなどで実用化が報道されるのを既存の寄付者様がご覧になれば、「寄付してよかった」と感じてくださる方も増え、満足度も高まるだろう。
これまでは社会課題と理念・想いを訴えてきたが、「事業の発展とファンドレイジングの伸長が相乗効果で良いサイクルを回していけるか否か?」が鍵になる。
デジタルマーケティングの0→1の立ち上げから始まった当社のご支援も、成長の反動にともなう「ボトルネック」を取り除くためのサポートへと移った。
そして今、未来を見据えた計画の策定や組織・体制づくりなどに重心を移し、「次の5年間に、新たな成長曲線をどのように描けるか?」を現在進行形で模索していくのに伴走している。
公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団
社会連携グループ長
山本 圭祐さま
私たちは、限られた人員で対応業務を行っておりますので、山内さんに伴走いただきながら、内部業務の効率化を行うために何をすれば良いのかご教示いただき、私たちは優先順位などを決めながら業務に取り組むことができました。
また、当財団へご寄付をご検討いただく方に対して、Webなどで発信する際に財団の活動をよりご理解いただくためにどのように表現すればいいのかなど、外部からの目線としてご一緒にご検討をいただきました。
私は、異業種から転職をしてきたので、寄付に関する知見をたくさんお持ちの山内さんの存在は非常に大きく、おかげさまで寄付者の方々に寄り添った対応を行うことができ、現在では多くの寄付者の皆さまが当財団を支えてくださっています。
これからも私たちの伴走役として、一緒に走っていければと思います。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。